SH4430 米FTC、日系企業の米国関連会社を含む約700社に対し、広告において製品に関する主張の合理的な裏付け・立証の必要性と法執行方針を通知 臼杵善治/橋本康(2023/05/09)

取引法務表示・広告規制

米FTC、日系企業の米国関連会社を含む約700社に対し、広告において製品に関する主張の合理的な裏付け・立証の必要性と法執行方針を通知

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業

 弁護士 臼 杵 善 治

       弁護士 橋  本  康

 

はじめに

 米国のFederal Trade Commission(以下「FTC」という。)は、2023年4月13日、約700の会社に対して、商品の表示を裏付けることができない場合には、penalty offense authorityと呼ばれる民事制裁を課す可能性がある旨の通知を送付したことを公表した[1]。当該公表においては、FTCが通知を送付した会社のリストも公表されており[2]、その中には、日本に本社がある企業の米国関連会社と思われる企業名も複数含まれている。そのため、日本企業からの関心も高いと思われ、本稿ではFTCによる通知の内容に加え、その背景にある制度(notice of penalty offenses)の概観を紹介する。

 

通知の背景・注目点

 FTC法5条は、不公正または欺まん的な行為または慣習を違法としているところであるが、合理的な根拠がないにもかかわらず商品の効用を表示することは、不公正または欺まん的な行為であるとして同条違反とされている。

 FTCの公表によると、FTCは、長い間、訴訟やポリシーステイトメントを通じて、広告の裏付けに関するガイダンスを提供してきたものの、依然として製品について裏付けのない表示をしたり、証明について虚偽の表示をしたりすることが多く見受けられると考えているようである。このような状況に鑑み、FTCは、penalty offense authorityと呼ばれる民事制裁を行うことを広告主に対して理解させ、また、今後、欺まん的な表示をしないようにするために、客観的な製品の表示にはそれを支える合理的な根拠が必要であることを通知したものである。

 注目すべき点としては、FTCはこの通知をnotice of penalty offensesとして各社に送付している点である。そこで、このnotice of penalty offensesの効用について述べておきたい。

 FTC法5条に違反した事業者への制裁手段の1つとして、penalty offense authorityという権限を用いた民事制裁がある。この権限の下では、当該行為が、過去にFTCによる正式な行政命令により違法とされた行為であって、その行為が不公正または欺まん的であって、FTC法に違反するものであることを事業者が知っている場合、FTCは、裁判所に対し、民事制裁を求めることができる。そして、penalty offense authorityに関する立証責任はFTCにあるため、FTCは、事業者に対してnotice of penalty offensesを送付することにより、どのような場合にFTC法に違反して不公正または欺まん的な行為となるかを事前に知らしめておくのである。そうすれば、仮に通知を受け取った者が不公正または欺まん的な表示をした場合、当該違反事業者に対して、FTCは、penalty offense authorityにより民事制裁を求めることが可能となる。この点にnotice of penalty offensesの狙いがある[3]。つまり、notice of penalty offensesは、将来のpenalty offense authorityによる執行に備えるものなのである。

 notice of penalty offensesの目的は、上記のとおりのものなので、現時点において、送付先の企業が裏付けのない表示をしたり、証明について虚偽の表示をしたりする個別具体的な疑いがかかっているということではないと考えられる[4]。もっとも、FTCとしては、警戒している分野の事業者に広めにnotice of penalty offensesを送付することが重要であり、今回の通知の送付先である、一般用医薬品、ホメオパシー製品、栄養補助食品、機能性食品の販売に関与している各社は、今後自社の表示について注意しなければならない状況となった。

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(うすき・よしはる)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー。2003年慶應義塾大学法学部卒業。2006年慶應義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(第一東京)。2015年University of London, LL.M. in Competition Law修了。公正取引委員会による審査手続対応、海外当局による調査手続対応、国内外の競争法当局に対する企業結合届出のサポート、競争法コンプライアンスマニュアル作成・競争法コンプライアンストレーニング、流通取引規制に関するアドバイス、景品表示法対応等の多数の案件を取り扱っている。

(はしもと・やすし)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業アソシエイト。2007年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2010年早稲田大学法科大学院卒業。2023年弁護士登録(第一東京)。2017年UCLA School of Law(LLM)修了。2018年Georgetown University Law Center (International Business and Economic Law (IBEL) 修了。2018年ニューヨーク州弁護士登録。平成23年10月に公正取引委員会に入局し、企業結合案件やデジタルプラットフォーム審査案件など、公正取引委員会での業務に10年以上にわたって従事していた。令和5年2月より、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業に所属し、競争法を中心にアドバイスを行っている。

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

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