SH4476 米国連邦取引委員会のオンラインプライバシー保護活動の最新動向――健康侵害通知規則修正案およびCOPPA先占に関するアミカス・ブリーフの提出―― 井上乾介/石瀛(2023/06/07)

取引法務個人情報保護法

米国連邦取引委員会のオンラインプライバシー保護活動の最新動向
――
健康侵害通知規則修正案およびCOPPA先占に関するアミカス・ブリーフの提出――

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 外国法共同事業

弁護士・カリフォルニア州弁護士 井 上 乾 介

中国弁護士・ニューサウスウェールズ州弁護士 石     瀛

 

1 はじめに

  近日、米国の連邦取引委員会(Federal Trade Commission、以下「FTC」という。)が、消費者のオンラインプライバシーの保護を目的とする執行活動[1]に加え、規則の修正等の準立法的な活動を行っている。

 本稿では、FTCの近時の活動のうち、健康侵害通知規則(Health Breach Notification Rule)修正案の意見募集稿の公表[2]と、児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)による州法の先占(Preemption)が争点となった訴訟における法廷助言者意見書(amicus brief、以下「アミカス・ブリーフ」という。)の提出[3]について紹介し、日本企業に対する実務上の示唆を検討する。

 

2 FTCによる健康侵害通知規則の修正案について

  米国の個人情報保護制度は、連邦レベルでは包括的な個人情報保護法が存在せず、個別の分野ごとに個別法を定めるセクトラル方式(個別分野別方式)を採用している。

 このうち、「健康侵害通知規則」(Health Breach Notification Rule)は、「2009年アメリカ復興・再投資法(American Recovery and Reinvestment Act of 2009)」に基づき[4]、病院や医療保険提供者等、機敏な個人情報である個人の健康記録(Private Health Record、以下「PHR」という。)を取り扱う事業者[5]を対象として、FTCが2009年に制定した規則である[6]

 健康侵害通知規則は、対象となるの事業者が、個人を識別可能なPHRの侵害が発生した60日内(500人以上の個人が影響を受ける場合は10営業日以内)に、関係する個人とFTCに通知することを義務付けている。健康侵害通知規則の違反行為は連邦取引委員会法5条の「不公正若しくは欺瞞的な行為又は慣行」(unfair or deceptive act or practice)とみなされ、制裁金の対象となる。

 2009年の制定以来、健康侵害通知規則の執行事例は多くはなかったものの、近年の健康アプリ、フィットネスアプリ等の普及によって、健康侵害通知規則の重要性が見直された。そして、2023年2月にFTCは薬の割引クーポン、遠隔診療サービスなどを提供するGoodRxに対し、初めて健康侵害通知規則に基づき150万米ドルの制裁金を科したことを発表した[7]

 今回公表された健康侵害通知規則の意見募集稿の主な修正内容には、健康アプリ等を適用対象とするための定義の変更や、PHRの侵害が発生した場合の個人への通知方法や通知内容(PHRを非合法に取得したと思われる第三者の詳細、被害状況等)の明確化等が含まれている。健康侵害通知規則のAppendix Aは、個人への通知時のSMSメッセージ、アプリ内メッセージ、サイト上のメッセージと通知メールの例も記載している[8]

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(いのうえ・けんすけ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 スペシャル・カウンセル。2004年一橋大学法学部卒業。2007年慶応義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(東京弁護士会)。2016年カリフォルニア大学バークレー校・ロースクール(LLM)修了。2017年カリフォルニア州弁護士登録。著作権法をはじめとする知的財産法、個人情報保護法をはじめとする各国データ保護法を専門とする。

 

(せき・いん)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業アソシエイト。2019年オーストラリアニューサウスウェールズ大学法学部卒業。2019年ニューサウスウェールズ州事務弁護士登録。2021年中国弁護士登録。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。

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