SH4648 アイルランドデータ保護当局がGDPRの公正性原則違反を理由として3億4500万ユーロの制裁を科した事案 井上乾介/福山和貴(2023/10/06)

取引法務個人情報保護法

アイルランドデータ保護当局がGDPRの公正性原則違反を理由として
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億4500万ユーロの制裁を科した事案

アンダーソン・毛利・友常法律事務所*

弁護士 井 上 乾 介

弁護士 福 山 和 貴

1 はじめに

 2023年9月15日、アイルランドデータ保護当局(Irish Data Protection Commission以下「DPC」という。)が、TikTokが13歳から17歳までの子供の個人データの処理につき、欧州一般データ保護規則(以下「GDPR」という。)の公正性の原則に違反すると決定し、3億4500万ユーロの罰金を科した(以下「本事案」という。)[1]

 本事案は、欧州連合(以下「EU」という。)における児童の個人データ保護強化[2]の一事例であるが、今後日本国内において同様の規制が導入された場合の参考となるため、本稿にて紹介する。

 

2 背景・経緯

 ⑴ 公正性の原則

  公正性の原則(Principle of Fairness)とは、EU基本権憲章[3]8条に基づき、「全ての個人データは当該個人の同意又は法律で定められた正当な根拠に基づき、特定の目的のために公正に処理されなければならない」とする原則である。

 GDPRでは5条(1)(a)において、透明性の原則とともに規定されている[4]。この原則を具体化した条文としては、GDPR12条(データ主体の権利行使のための透明性のある情報提供等)、13条および14条(データ主体への情報提供事項)、15条から22条(それぞれの権利行使に関するデータ主体との連絡)を規定している[5]

⑵ 本事案で問題となった仕様

 本事案では、2020年7月31日から12月31日までのTikTokの処理活動のうち、2点のポップアップが未成年のユーザーに対して、客観的かつ中立的な方法で選択肢を提示していなかったことが問題となった。

 このうち、1点目は、アカウント登録に関するポップアップである。当該ポップアップでは、未成年のユーザーは「スキップ」とラベル付けされた右側のボタンを選択するように誘導され、当該ボタンを選択すると公開アカウントを選ぶこととなっていた。これにより、たとえば、未成年のユーザーが作成したビデオコンテンツに対して、すべてのユーザーがコメントできるようになっていた[6]

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(いのうえ・けんすけ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 スペシャル・カウンセル。2004年一橋大学法学部卒業。2007年慶応義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(東京弁護士会)。2016年カリフォルニア大学バークレー校・ロースクール(LLM)修了。2017年カリフォルニア州弁護士登録。著作権法をはじめとする知的財産法、個人情報保護法をはじめとする各国データ保護法を専門とする。

 

(ふくやま・かずき)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。一橋大学法学部・一橋大学法科大学院卒業。2022年弁護士登録(第一東京弁護士会)。

 

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