SH4478 直近のGDPR違反の制裁事例(Metaに対して12億ユーロの制裁金が課されたケース、健康データやクッキーの取扱いが問題となったDOCTISSIMOに対する制裁のケース)中崎尚(2023/06/08)

取引法務個人情報保護法

直近のGDPR違反の制裁事例(Metaに対して12億ユーロの制裁金が課されたケース、健康データやクッキーの取扱いが問題となったDOCTISSIMOに対する制裁のケース)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業

弁護士 中 崎   尚

 

1 アイルランドデータ保護委員会v.メタ・アイルランド

  2023年5月22日、アイルランドデータ保護委員会(IDPC)は、Meta Ireland社(メタ・アイルランド)に対し、一般データ保護規則(GDPR)違反の制裁金として合計12億ユーロ(約1800億円)の支払いおよび個人データの米国への移転の停止および移転体制の改善を命じた。[1]この制裁金は、IT企業に対して課されたGDPR違反の制裁金として、史上最大の金額であると報じられている。

 この違反の調査は2020年8月に開始され、その後、アイルランド高等裁判所の命令により、一連の法的手続の解決を待って、2021年5月20日まで停止されていた。その後、包括的な調査が実施され、IDPCは2022年7月6日付で決定書案を作成した。

 メタ・アイルランドは、2021年に欧州委員会が採択した更新された標準契約条項(「SCCs」)とメタ・アイルランドが実施した追加の補足措置に基づき、欧州域内から米国への個人データの移転を実施していた。IDPCは、SCCsは締結されているものの、メタ・アイルランドによる措置が、欧州司法裁判所がSchrems II事件判決で求めているデータ主体の「基本的権利と自由に対するリスク」に対処できておらず、GDPR46条1項に違反するものであると指摘した。

 IDPCとメタ・アイルランド間では、非公式な協議が行われたが、合意に至らなかったことから、IDPCは、GDPRに基づく義務に従い、65条の紛争解決メカニズムに従った決定を得るため、異議申立てを欧州データ保護委員会(EDPB)に付託した。

 EDPBは、2023年4月13日に決定を採択、同決定を「基礎として」、IDPCは以下の通り、最終決定を採択した。

 

  1. ① 12億ユーロの行政罰(IDPCは、EDPBの決定に含まれる評価および決定を参照して、課される罰金の額を決定した)
  2. ② GDPR58条(2)(j)に基づき、メタ・アイルランド社に対し、IDPCの決定がメタ・アイルランド社に通知された日から5ヶ月以内に、今後の個人データの米国への移転を停止するよう求める。
  3. ③ GDPR58条(2)(d)に基づき、メタ・アイルランド社に対し、IDPCの決定がメタ・アイルランド社に通知された日から6ヶ月以内に、GDPRに違反して移転されたEU/EEAユーザーの個人情報の米国における保存を含む違法な処理を停止することにより、同社の処理業務をGDPR5章に準拠させるよう求める。

 

 本制裁事例からは、欧州域内から域外への個人データの移転を行おうとする事業者は、SCCsを締結しているだけでは必ずしも十分ではない、という当局の問題意識が浮き彫りにされたといえる。

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(なかざき・たかし)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業スペシャルカウンセル。東京大学法学部卒、2001年弁護士登録(54期)、2008年米国Columbia University School of Law (LL.M.)修了、2009年夏まで米国ワシントンD.C.のArnold & Porter法律事務所に勤務。復帰後は、インターネット・IT・システム関連を中心に、知的財産権法、クロスボーダー取引を幅広く取扱う。日本国際知的財産保護協会編集委員、経産省おもてなしプラットフォーム研究会委員、経産省AI社会実装アーキテクチャー検討会作業部会構成員、経産省IoTデータ流通促進研究会委員、経産省AI・データの利用に関する契約ガイドライン検討会委員、International Association of Privacy Professionals (IAPP) Co-Chairを歴任。2022年より内閣府メタバース官民連携会議委員。

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