SH4531 新聞記事の社内イントラネットへの掲載につき著作権侵害を肯定し、著作権法114条3項に基づき損害賠償を算定した事例(知財高裁令和5年6月8日判決) 井上乾介/中島滉平(2023/07/06)

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新聞記事の社内イントラネットへの掲載につき著作権侵害を肯定し、著作権法114条3項に基づき損害賠償を算定した事例(知財高裁令和5年6月8日判決)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業

弁護士・カリフォルニア州弁護士 井 上 乾 介

弁護士 中 島 滉 平

 

1 はじめに

 知財高裁第一部は、2023年6月8日に「つくばエクスプレス」を運行する首都圏新都市鉄道株式会社(以下「被告」という。)が、日刊紙「東京新聞」を発行する中日新聞株式会社(以下「原告」という。)が発行した新聞の記事を無許諾で社内イントラネットに掲載した行為について、一審[1]同様、著作権侵害を認め、原告による損害賠償請求を一部認容した[2]

 本判決は、著作物の社内利用について、著作権侵害の成否や損害額等を判断したものであり、注目に値する。本稿では、事実経過をふまえつつ、一審および控訴審(本判決)の判断内容を紹介する。

 

2 事実経過

 一審および控訴審の判決によれば、本件の事実経過はおおむね以下のとおりである。

日時 事実
2005年8月24日
  • 被告が「つくばエクスプレス」を開業した。
2005年9月頃
  • 被告の従業員が、原告を含む複数の新聞社が発行する新聞の記事を切り抜いてスキャンし、その画像データを社内イントラネット(以下「本件イントラネット」という。)の掲示板のための記録媒体に記録し、本件イントラネットに掲載するようになった。
  • 本件イントラネットに掲載された記事は、多くの被告従業員・役員が、被告事務所等に設置されたパソコンを利用して閲覧することができた。
2005年度  
  • 被告では、一定の新聞記事を切り抜き、それを用紙に貼るなどした上、「●年度 新聞記事(当社・沿線)」などのタイトルを付したフォルダ(以下「本件フォルダ」といい、本件フォルダに保管されていた記事のうち、原告が発行した新聞の記事を「本件保管記事」という。)につづって保管している[3]
  • 2004年度から2017年度分について、そのようなフォルダが存在している。
  • 被告会社は、収集した新聞記事のうち、被告や被告が運営する鉄道の沿線に関する記事(以下「被告関連記事」という。)のみを本件フォルダで保管していた。
2008年4月
  • 原告が、著作物の利用を許諾する際の使用料に関する規定(以下「本件個別規定」という。)を定めた。
2012年度  
  • 2012年度以降の本件フォルダに保管されている記事については、記事が貼付された用紙に日付や取扱部署等が記載され、その下に記事が貼付されているもの(以下単に「枠付き記事」という。)と、そのような処理がなされていないものがあった。
  • 他方で、2011年度以前のフォルダには、枠付き記事は存在しない[4]
2019年4月16日~22日
  • 被告が本件イントラネットから記事を削除した。
2019年5月28日
  • 被告が無許可で新聞記事を本件イントラネットへ掲載していることが発覚したことを受けて、原告を含む新聞社6社と被告担当者による合同面談が実施された。
2020年2月17日  
  • 原告が、被告に対して、複製権および公衆送信権侵害に基づき、損害賠償および遅延損害金を請求する訴えを提起した。

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(いのうえ・けんすけ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 スペシャル・カウンセル。2004年一橋大学法学部卒業。2007年慶応義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(東京弁護士会)。2016年カリフォルニア大学バークレー校・ロースクール(LLM)修了。2017年カリフォルニア州弁護士登録。著作権法をはじめとする知的財産法、個人情報保護法をはじめとする各国データ保護法を専門とする。

 

(なかしま・こうへい)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2020年早稲田大学法学部卒業。2022年弁護士登録(東京弁護士会)。

 

<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。

<連絡先>
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