人的資本経営の実践と情報開示の実務対応
第2回:日本企業の人材と組織の関係、資本市場との対話の現状
日比谷タックス&ロー弁護士法人
弁護士 堀 田 陽 平
第1部 総論
第2回:日本企業の人材と組織の関係、資本市場との対話の現状
【今回の狙い】 連載第2回では、前回述べた課題意識を踏まえ、我が国企業の現状を見ていきます。この点が、人材版伊藤レポートが策定された狙い、ひいては人的資本政策の狙いにつながっていきますので、よく理解いただきたい内容です。
【今回の主なターゲット】
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1 日本企業の現状はどうなっているか
前回は日本企業を取り巻く外部環境の変化から人的資本政策が何を課題として進められているのかを解説しました。
前回解説したとおり、日本企業を取り巻く環境変化から、経営上の課題と人材戦略上の課題とが密接に関連するようになっています。
今回は日本企業では、人材と組織の関係性、資本市場との対話の現状がどのようになっているのかを見てみます。
2 経営戦略と人材戦略の連動の現状
まず、日本企業の人事部門の課長以上の方に対して行われた人材マネジメント上の課題についてのアンケートでもっとも回答が多かったのは、「人材戦略上が経営戦略と紐づいていない」という点でした。
(図)人材マネジメント上の課題(複数回答)
出典:パーソル総合研究所「True Colors 日本的タレントマネジメントの可能性」HITO REPORT vol.7(2019)13頁をもとに作成
次に、日本企業で、人事部門が経営戦略の意思決定にどの程度関与できているかを見てみると、「どちらかというと関与していない」が28.2%、「関与していない」が23.9%という状況であり、経営戦略の意思決定が人材の視点なしに行われていることが推測されます。
(図)経営戦略の意思決定への人事部門の関与
出典:日本の人事部「人事白書2019」をもとに作成
また、経営戦略と人材戦略を連動させるための重要な役割を果たすことが期待されるのが「CHRO」(Chief Human Resource Officer)の存在です。
しかし、多くの日本企業ではCHROが設置されておらず、また設置の予定もない企業が多いです。
(図)CHROの存在
出典:日本の人事部「人事白書2021」をもとに作成
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(ほった・ようへい)
2016年弁護士登録(第69期。第二東京弁護士会)。2017年鳥飼総合法律事務所入所。
2018年7月現在の事務所へ移籍。2018年10月から経済産業省経済産業政策局産業人材政策室(当時。現在は「課」)に任期付き職員として着任。
経済産業省では、兼業・副業の推進、テレワークの推進、フリーランス政策等の柔軟な働き方に関する政策立案や、人材版伊藤レポートの策定等の人的資本経営の推進に関する政策立案等に従事。経済産業省から帰任後も人的資本経営の実践・開示に関するセミナーや寄稿を行う。