SH4598 【続報】知財高裁大合議(ドワンゴ対FC2事件 控訴審) 国外サーバからのファイル配信行為に関し、システム発明の「生産」該当性を肯定 後藤未来/吉田崇裕(2023/08/23)

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【続報】知財高裁大合議(ドワンゴ対FC2事件 控訴審)
国外サーバからのファイル配信行為に関し、システム発明の
「生産」該当性を肯定

アンダーソン・毛利・友常法律事務所*

弁護士 後 藤 未 来

弁護士 吉 田 崇 裕

 

1 はじめに

 知財高裁特別部(大合議)は、2023年5月26日、サーバとネットワークを介して接続された複数の端末装置を備えるシステムの発明について、日本国外に存在するサーバと日本国内に存在するユーザ端末からなるシステムを新たに作り出す行為が、上記発明の実施行為として、特許法2条3項1号所定の「生産」に該当すると判断し、原審判決を一部変更する判決(以下「本判決」という。)を下した[1](なお、本判決に対しては上告がなされたようである。)。

 本件は、コメント機能付き動画配信の方法等に関して複数の特許権を有する株式会社ドワンゴ(以下「ドワンゴ」という。)が、「FC2動画」等の動画配信サービス(以下「FC2サービス」という。)を提供するFC2, INC.(以下「FC2」という。)らに対して、FC2のコメント配信システム(以下「FC2システム」という。)の特許権侵害に基づく差止めおよび損害賠償を求めて提起した一連の事件の一つである。

 筆者らの前稿[2]では、本判決の要約[3]に基づき本件の概要を紹介したが、本稿では、その後に公開された判決全文[4]で明らかとなった点も踏まえ、改めて紹介する。

 

2 事案の概要

 本事件の対象となったドワンゴの特許権は特許第6526304号であるが、その請求項1に記載された発明(以下「本件発明1」という。)の構成要件は次のとおりである。

 

 本件発明1

  1. 1A サーバと、これとネットワークを介して接続された複数の端末装置と、を備えるコメント配信システムであって、
  2. 1B 前記サーバは、前記サーバから送信された動画を視聴中のユーザから付与された前記動画に対する第1コメント及び第2コメントを受信し、
  3. 1C 前記端末装置に、前記動画と、コメント情報とを送信し、
  4. 1D 前記コメント情報は、前記第1コメント及び前記第2コメントと、前記第1コメント及び前記第2コメントのそれぞれが付与された時点に対応する、前記動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と、を含み、
  5. 1E 前記動画及び前記コメント情報に基づいて、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、を前記端末装置の表示装置に表示させる手段と、
  6. 1F 前記第2コメントを前記1の動画上に表示させる際の表示位置が、前記第1コメントの表示位置と重なるか否かを判定する判定部と、
  7. 1G 重なると判定された場合に、前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならない位置に表示されるよう調整する表示位置制御部と、を備えるコメント配信システムにおいて、
  8. 1H 前記サーバが、前記動画と、前記コメント情報とを前記端末装置に送信することにより、前記端末装置の表示装置には、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、が前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならないように表示される、
  9. 1I コメント配信システム。

出典:本判決文第2の2(2)ウ(ア)より引用

 

 また、本判決文によれば、本判決で対象となったFC2サービス(FC2動画)のうちのFLASH版については、以下のとおりの動作をする。

  1. ①  ユーザが、事前にAdobe Flash Playerをブラウザのプラグイン(拡張機能)としてユーザ端末(国内のユーザ端末。)にインストールしておく。
  2. ②  ユーザが、ユーザ端末のブラウザにおいて、所望の動画を表示させるためのFC2サービスのウェブページを指定する。
  3. ③  ②に応じて、FC2のウェブサーバが上記ウェブページのHTMLファイルおよびSWFファイルをユーザ端末に送信する。
  4. ④  ユーザ端末が上記HTMLファイルおよびSWFファイルを受信し、これらをブラウザのキャッシュに保存する。
     FLASHが、ブラウザのキャッシュにあるSWFファイルを読み込む。
  5. ⑤  ユーザが、ユーザ端末において、ブラウザ上に表示されたウェブページにおける動画の再生ボタンを押す。
  6. ⑥  ④でFLASHが読み込んだSWFファイルには、動画およびコメントに関する情報の取得をリクエストするようにブラウザに要求する命令が格納されており、FLASHが、その命令に従って、ブラウザに対し動画ファイルおよびコメントファイルを取得するよう指示し、ブラウザが、その指示に従って、FC2の動画配信用サーバに対し動画ファイルのリクエストを行い、FC2のコメント配信用サーバに対しコメントファイルのリクエストを行う。
  7. ⑦  ⑥のリクエストに応じて、FC2の動画配信用サーバが動画ファイルを、FC2のコメント配信用サーバがコメントファイルを、それぞれユーザ端末に送信する。
  8. ⑧  ユーザ端末が、⑦の動画ファイルおよびコメントファイルを受信する。
     これにより、ユーザ端末が、受信した動画ファイルおよびコメントファイルに基づいて、ブラウザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させる。
     その表示の際に二つのコメントが重複するか否かを判定する計算および重複すると判定された場合の重ならない表示位置の指定は、SWFファイルによって規定される条件に基づいて行われている。

出典:本判決文第4の4(1)ウより引用の上、一部編集した。

 

 この動作を図示すると以下のとおりである。

出典:本判決文別紙8-2より引用

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(ごとう・みき)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー、弁護士・ニューヨーク州弁護士。理学・工学のバックグラウンドを有し、知的財産や各種テクノロジー(IT、データ、エレクトロニクス、ヘルスケア等)、ゲーム等のエンタテインメントに関わる案件を幅広く取り扱っている。ALB Asia Super 50 TMT Lawyers(2021、2022)、Chambers Global(IP分野)ほか選出多数。AIPPIトレードシークレット常設委員会副議長、日本ライセンス協会理事。

 

(よしだ・たかひろ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2018年東京大学工学部卒業。2020年東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻修士課程修了。2022年弁護士登録(第二東京弁護士会)。

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

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