欧州委員会、炭素国境調整メカニズム(CBAM)の実施規則を採択
――輸入業者と非EUの施設向けガイダンス発表――
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士 宮 川 賢 司
弁護士 香 川 遼太郎
1 はじめに
欧州委員会は、2023年8月17日、炭素国境調整メカニズム(CBAM:Carbon Border Adjustment Mechanism)規則の移行期間における報告義務に関する実施規則(「CBAM実施規則」)を採択した[1]。また、同日、CBAM実施規則に関するガイダンスも発表した。
CBAM自体は、2022年12月、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会との間の政治合意を経て、2023年5月17日に施行(Regulation (EU) 2023/956)しており、2023年6月13日には、すでにCBAM規則の移行期間における報告義務に関する実施規則案を発表していた。そして、当該規則案を採択するに至った。
2 CBAM実施規則の概要
⑴ CBAMとは
CBAMは、2005年に開始されたEU域内の排出権取引制度である欧州排出量取引制度(EU-ETS:European Union Emissions Trading System)による二酸化炭素の削減に関する規制を強化したことに伴う炭素リーケージ(規制が緩やかな域外の国へ製造拠点等を移転させることにより、国内の生産が減少すること)を防止することを目的として、対象部門の輸入品に対して炭素課金を課す炭素国境調整制度である。
出典:「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会(国境炭素調整措置の最新動向の整理―欧州における動向を中心に―[2])」(経済産業省、2021年2月17日)
対象製品は、鉄、鉄鋼、セメント、電力、肥料、アルミニウム、水素等である。対象製品をEU域内で製造する場合、EU ETSに基づいての炭素課金が課されるが、CBAMはこれと同等の金額の支払いを、対象製品をEU域外から輸入する場合に課すものである。
CBAMの適用によって支払われた金額は、CBAM自体の運用に充てられ、それでもなお残余が生じる場合にはEUの予算に組み込むことが予定されている。
CBAMの対象は適用除外の国を除くすべての国である。適用除外の対象となるのは、EU-ETSを適用する国またはEU ETSに完全にリンクした炭素価格制度の対象となっている国(アイスランド、リヒテンシュタイン等)に限定されている。また、対象製品の原産国で支払われた「炭素価格分」のオフセット(控除)は認められているため、仮にCBAM適用対象となった場合はこのオフセットが認められるかがポイントとなる。
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(みやがわ けんじ)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャル・カウンセル弁護士。1997年慶應義塾大学法学部卒業。2000年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2004年ロンドン大学(University College London)ロースクール(LLM)修了。2019年から慶應義塾大学非常勤講師(Legal Presentation and Negotiation)。国内外の金融取引、不動産取引、気候変動関連法務および電子署名等のデジタルトランスフォーメーション関連法務を専門とする。
(かがわ・りょうたろう)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。早稲田大学法学部卒業。2022年弁護士登録(東京弁護士会)。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。
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