中国の人工知能セキュリティ標準化白書2023年版の公表
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士・ニューヨーク州弁護士 後 藤 未 来
中国弁護士・ニューサウスウェールズ州弁護士 石 瀛
1 はじめに
2023年5月31日、中国国家情報セキュリティ標準化技術委員会は、人工知能セキュリティ標準化白書2023年版(以下「本白書」という。)を公表した[1]。本白書は人工知能セキュリティ標準化白書 2019年版[2](以下「2019年版白書」という。)から約4年の歳月を経て発表されたものである。2019年版白書は、具体的な産業分析、技術原理や企業から提供されたAI関連の実例を含め、全86頁の詳細なものであったのに対し、本白書は全23頁と比較的簡潔なものとなっている。
本白書の公表のタイミング等にも鑑みると、おそらくは、ChatGPTや「文心一言(アーニー・ボット)[3]」等を含む中国における新たな生成系AIのサービス開始や普及に伴うニーズに促される形で作成されたものと推測される。
本稿では、2019年版白書とも対比しつつ、AIセキュリティに対する中国の懸念や今後予想される規制等の方向性といった観点から、本白書の内容を概観する。
2 AI技術と規制の現況
本白書では、AI技術の発展の現況について、2020年以降、自動運転や顔認識などの技術の成長が徐々に鈍化していると思われる中、ChatGPTを始めとするAIの能力が驚くべき方法で示され、AIの第三次ブームは現在も上昇期に位置するとの認識が示されている。
また、本白書は、身元識別、自動運転、医療診断、教育補助、金融分析や個人用アシスタント等の領域におけるAIの重要性を肯定した上で、将来的には一般的なAIアプリケーションを基盤とした新しいAIエコシステムの社会的運用がなされるとの見方を示している。
他方で、AIに対する規制に関して、本白書は、国連、米国、EU、日本、シンガポール等の法律や標準の施策方針や施行状況等の調査内容に鑑み、程度の差はあれ、AIが各国の規制対象として高い注目を集めているとの認識を示している。その上で、中国本土の規制については、「生成系人工知能サービス管理弁法」、「インターネット情報サービスのアルゴリズム推奨管理規定」や「インターネット情報サービス深層合成管理規定」の施行に着目し、これらの規制がAI技術の秩序ある発展を支える土台になっていると評している。
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(ごとう・みき)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー、弁護士・ニューヨーク州弁護士。理学・工学のバックグラウンドを有し、知的財産や各種テクノロジー(IT、データ、エレクトロニクス、ヘルスケア等)、ゲーム等のエンタテインメントに関わる案件を幅広く取り扱っている。ALB Asia Super 50 TMT Lawyers(2021、2022)、Chambers Global(IP分野)ほか選出多数。AIPPIトレードシークレット常設委員会副議長、日本ライセンス協会理事。
(せき・いん)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2019年オーストラリアニューサウスウェールズ大学法学部卒業。2019年ニューサウスウェールズ州事務弁護士登録。2021年中国弁護士登録。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
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