生成AIの出力結果について、AI提供事業者の責任を認めた
世界初の裁判例(広州ウルトラマン事件)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士 中 崎 尚
1 はじめに
2024年2月8日、中国広州インターネット法院は、生成AIの出力結果による著作権侵害に関して、AI提供事業者の責任を認める世界初の判決(以下、「本判決」という。)を下し、注目されている[1]。本判決の意義は、AI提供事業者に対する規制が世界各国で開始されようとしている現在、世界に先駆けてその規制違反が認められた点にある。その背景としては、中国において、EU AI actに先駆けて施行された、生成AIサービスに関する世界初の包括的な規制である「生成人工知能サービス管理暫定弁法(生成式人工智能服务管理暂行办法)」(以下、「本弁法」という。)が、2023年8月15日より施行されていることが指摘できる。
本判決は、生成AI提供事業者である被告の提供する画像生成AIの出力結果が、特撮の人気コンテンツである「ウルトラマン」のキャラクターに類似し、その著作権を侵害していることを認定した上で、そのような出力がなされたことについて、本弁法の定める出力結果の生成に関する注意義務違反を認めたものである。
2 判決に至る経緯
中国における「ウルトラマン」コンテンツの権利関係については、複雑な経緯があるため本記事では詳細に触れることは避けるが、本判決では、株式会社円谷プロダクションより、原告である上海キャラクターライセンス管理有限公司(SCLA. Ltd.(SCLA)に対し、中国国内におけるウルトラマンシリーズの著作物の複製権、二次的著作物の作成権、権利行使権を含む独占的ライセンスが許諾されていることを前提としている。
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(なかざき・たかし)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャルカウンセル。東京大学法学部卒、2001年弁護士登録(54期)、2008年米国Columbia University School of Law (LL.M.)修了、2009年夏まで米国ワシントンD.C.のArnold & Porter法律事務所に勤務。復帰後は、インターネット・IT・システム関連を中心に、知的財産権法、クロスボーダー取引を幅広く取扱う。日本国際知的財産保護協会編集委員、経産省おもてなしプラットフォーム研究会委員、経産省AI社会実装アーキテクチャー検討会作業部会構成員、経産省IoTデータ流通促進研究会委員、経産省AI・データの利用に関する契約ガイドライン検討会委員、International Association of Privacy Professionals (IAPP) Co-Chairを歴任。2022年より内閣府メタバース官民連携会議委員。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
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