SH4661 調停に関するシンガポール条約の締結/条約実施法の制定 矢野雅裕/土門駿介(2023/10/20)

取引法務企業紛争・民事手続

調停に関するシンガポール条約の締結/条約実施法の制定

アンダーソン・毛利・友常法律事務所*

弁護士 矢 野 雅 裕

弁護士 土 門 駿 介

 

1 はじめに

 2023年10月1日、日本は、調停に関するシンガポール条約[1](以下「本条約」という。)の締結に向けた手続を行った[2]。本条約の規定にしたがい、日本について本条約の効力が生じるのは2024年4月1日となっている。この点に関連して、本条約の締結に先立ち、今国会(第211回)において、本条約の締結に向けた国会承認が行われたほか、新法である本条約の実施法[3](以下「条約実施法」という。)の制定が、仲裁法の改正や国内調停に関するADR法の改正とあわせて行われた。

 これら民間ADRの利用促進に関する最近の動向のうち、本記事では、国際調停を利用した紛争解決に絞り、本条約および条約実施法の重要なポイントについて紹介する。

 

出典:「仲裁法の一部を改正する法律、調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の実施に関する法律、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律」(法務省[4]

 

2 調停に関するシンガポール条約

⑴ 総論

 本条約は、UNCITRAL(国連国際商取引法委員会)において作成され、2019年8月7日にシンガポールにおいて署名式典が実施された。国際仲裁については、いわゆるニューヨーク条約[5]によって仲裁判断等の執行力が国際的に確保されているが、本条約は、国際的な商事調停により成立した「和解合意(settlement agreement)」についても、外国での執行力を付与するための国際的な枠組みを設けようとするものである。

 執筆時点においては、56か国(アメリカ、韓国、英国、オーストラリア等)が本条約に署名しているが、締約に至っているのは11か国であり、日本は12番目の締約国となる。なお、日本は、締約に当たり、「和解合意」の当事者が本条約の適用に合意した場合に限って本条約が適用される旨の留保(いわゆる「オプトイン留保」)を行っている[6]

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(やの・まさひろ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。2003年東京大学法学部卒業。2003年-2007年財務省勤務。2010年東京大学法科大学院終了。2011年弁護士登録。2018年Queen Mary University of London(LLM)修了。主要な業務分野は、国内外の紛争解決業務(訴訟、調停、国際訴訟、国際調停、国際仲裁)。

 

(どもん・しゅんすけ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー、弁護士・ニューヨーク州弁護士。米国シカゴ及びシンガポールの法律事務所での勤務経験を有し、国際取引や労働案件の他、国際仲裁・国際調停をはじめとする国際的な紛争解決に豊富な知見を有する。日本仲裁人協会(JAA)研究委員会委員長。

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

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アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。

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