米国、AIの開発と利用に関する大統領令を公表
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士・ニューヨーク州弁護士 後 藤 未 来
中国弁護士・ニューサウスウェールズ州弁護士 石 瀛
1 はじめに
2023年10月30日、バイデン米大統領は、AIの開発と利用に関する大統領令(以下「本大統領令」という。)を公表した[1]。本大統領令は、バイデン大統領の主導の下、AIの開発を促進し、またAIシステムの潜在的リスクから米国を守るための徹底した行動指針を示す画期的なものと位置づけられている。
本大統領令は、2024年11月5日に行われる米大統領選挙への布石との見方もあるかもしれないが、その内容をみると、具体的な期限を定めたうえで、AI分野において米国の各政府機関等がとるべき行動等を示しており、「米国のAI戦略」にかかる一定の方向性を示すものとして注目される。
本大統領令は全13節から構成され、大きく8つの観点から、各政府機構等がとるべき措置等を詳細且つ多岐にわたって示している。本稿では、これらのうち、企業実務への影響等の観点から重要と思われる内容に焦点を当てて、その内容を概観する。
2 本大統領令の概要
⑴ AIの安全性とセキュリティに関する基準の策定
AIの使用における安全性・信頼性を評価・確保するための基準を策定することとされている。
項目 | 概要 | 備考(筆者ら) |
4.1(a) | 2024年7月26日までに、商務省、エネルギー省、国土安全保障省と国立標準技術研究所によるAIシステムを開発、展開および性能評価するためのガイドライン、ベストプラクティスの公表 | 具体的な技術標準や評価方法が含まれる基準が含まれるため、米国におけるAIルール策定に向けた重要な試みになると思われる。 |
4.2(a) | 2024年1月28日までに、商務省による、一定規模のAIを開発する(または開発する意向を示す)企業のAIの開発・運営状況や脆弱性防止に関する記録を継続的に連邦政府に提供することの要求 | AIのリスクを評価する上でも、AIを所有する企業の協力は不可欠だと思われる。この項目は、国防生産法に基づくこととされており、AIのリスクが国家安全に対する脅威と捉えられていることが示唆される。 |
4.3(a)(ii) | 2024年3月28日までに、財務省による、金融機関がAIの安全性を管理するためのベストプラクティスの報告書の公表 | 金融業におけるAIの使用にかかる指針になり得るものとして注目される。 |
4.5(a), (b) | 2024年6月26日までに、商務省による、AI生成コンテンツの識別に関する報告書の提出、および提出後のガイダンス作成、識別結果の認証に関する指針の公表 | AIに関するルール形成・運用において、AIの関与を識別する技術は最も重要な基盤の一つと考えられ、注目される。 |
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(ごとう・みき)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー、弁護士・ニューヨーク州弁護士。理学・工学のバックグラウンドを有し、知的財産や各種テクノロジー(IT、データ、エレクトロニクス、ヘルスケア等)、ゲーム等のエンタテインメントに関わる案件を幅広く取り扱っている。ALB Asia Super 50 TMT Lawyers(2021、2022)、Chambers Global(IP分野)ほか選出多数。AIPPIトレードシークレット常設委員会副議長、日本ライセンス協会理事。
(せき・いん)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2019年オーストラリアニューサウスウェールズ大学法学部卒業。2019年ニューサウスウェールズ州事務弁護士登録。2021年中国弁護士登録。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。
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