EDPB、Facebook及びInstagramを運営するメタ社に対して「行動ターゲティング広告」を禁止するノルウェーの措置を、EU・EEAの全加盟国30か国にて適用と発表
――時系列でみるEU各国当局とメタ社の闘い――
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士 中 崎 尚
1 今回の決定の概要
EDPB(European Data Protection Board、欧州データ保護会議)は、2023年10月27日、アイルランドのデータ監督当局であるAn Coimisiún um Chosaint Sonraí(英語名:The Office of the Data Protection Commissioner)(以下「DPC」)に対し、2週間以内にメタ・アイルランド・リミテッド(Meta Ireland Limited)(以下「メタ社」)に関する最終的な措置として、欧州経済領域(EEA)全域において、契約と正当な利益を法的根拠とする行動ターゲティング広告のための個人データ処理を禁止するよう指示する緊急拘束力のある決定を採択した。[1]
この緊急かつ拘束力のある決定は、ノルウェーのデータ監督当局であるDatatilsynet(英語名:Norwegian Data Protection Authority)(以下「NO DPA」)の同当局による措置と同様の措置を、EEA全域において展開すべきとの要請を踏まえて出されたものである。
2 メタ社の行動ターゲティング広告をめぐるこれまでの当局の動き
メタ社の行動ターゲティング広告をめぐっては、GDPRの施行日である2018年5月25日まで話はさかのぼる。Schrems I(セーフハーバーを無効とした判決)・Schrems II(プライバシーシールドを無効とした判決)で知られるプライバシー活動家のマックス・シュレムス氏が共同で設立したNone of Your Business(「NOYB」)が、FacebookとInstagramにおける行動ターゲティング広告やそのほかのサービスのために個人データの処理に同意するようユーザーに「強制」しているとして、DPCにクレームを申し立てた。
当時、GDPRの発効を前に、メタ社は利用規約を更新し、サービスへのアクセスを継続する前に新しい規約に同意するようユーザーに求めていた。メタ社は、利用者が新規約を承諾した時点で、同社と契約を締結したことになり、同社による個人データの処理について、「契約の履行」の法的根拠に依拠することが可能になると主張していた。
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(なかざき・たかし)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャルカウンセル。東京大学法学部卒、2001年弁護士登録(54期)、2008年米国Columbia University School of Law (LL.M.)修了、2009年夏まで米国ワシントンD.C.のArnold & Porter法律事務所に勤務。復帰後は、インターネット・IT・システム関連を中心に、知的財産権法、クロスボーダー取引を幅広く取扱う。日本国際知的財産保護協会編集委員、経産省おもてなしプラットフォーム研究会委員、経産省AI社会実装アーキテクチャー検討会作業部会構成員、経産省IoTデータ流通促進研究会委員、経産省AI・データの利用に関する契約ガイドライン検討会委員、International Association of Privacy Professionals (IAPP) Co-Chairを歴任。2022年より内閣府メタバース官民連携会議委員。
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