インドネシア:正副大統領候補者の資格要件に関する
憲法裁判所の判決(1)
――ジョコウィ大統領長男の出馬に道を拓く――
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 前 川 陽 一
はじめに
混迷する国際情勢の中にあって、2024年は、4年に1度の米大統領選挙の帰趨に注目が集まっているが、グローバルサウスの一角を占めるインドネシアにおいても、5年に1度の大統領選挙が実施される年である。2期10年を務める現職のジョコ・ウィドド(通称「ジョコウィ」)大統領は、憲法の規定により3選が禁じられている。そのため、後任の大統領にどのような人物が就任するか、ジョコウィ大統領の政策が承継されるか否かは、インドネシア国民だけでなく、インドネシアと関係を有する全ての国や企業にとっても重要な関心事と言える。
大統領選挙の候補者の公示日が近づく2023年10月16日、正副大統領候補者の資格要件に関して重要な判決が憲法裁判所において言い渡された。正副大統領への立候補要件を満40歳以上とする総選挙法の規定について、地方自治体の首長等の公職者及びその経験者はかかる年齢制限の対象外とするというものである。この判断は、事実上、ジョコウィ大統領の長男でスラカルタ市長のギブラン・ラカブミン・ラカ氏(36歳)の出馬に道を拓くものとなったため、その妥当性に関して議論を呼んでいる。
この判決を巡っては、憲法裁判所長官がジョコウィ大統領の縁者であること等政治的な背景事情について多くの報道がなされているところである。本稿では、インドネシアにおける憲法裁判所の法的権限の観点から本判決を見ていくこととしたい。
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(まえかわ・よういち)
1998年東京大学法学部卒業。2006年東京大学法科大学院修了。2007年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2013年Northwestern University School of Law卒業(LL.M.)。2013年~2016年長島・大野・常松法律事務所ジャカルタ・デスク(Soemadipradja & Taher内)勤務。2019年~2023年長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィス勤務。2024年~長島・大野・常松法律事務所ジャカルタ・オフィス(IM & Partners in association with Nagashima Ohno & Tsunematsu)勤務。
ジャカルタの業務提携先法律事務所に3年間駐在し、日本企業のインドネシア進出及び投資、進出後の労務問題、危機管理等に関して豊富な経験を有する。2019年から2023年までのシンガポール・オフィスでの執務を経て、2024年1月からジャカルタを拠点として、日本企業のインドネシアにおけるJV案件、M&A案件、不動産取引、既進出企業の現地での日々のオペレーションに伴う法務面のアドバイスを行っている。
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