NBL1269号「法務等担当者覆面座談会2024」連動企画
若手・中堅法務担当者 覆面座談会
法務部門・法務担当者の現在そして明日
法務部門は、それぞれの会社の業態や歴史・風土などに応じて、その規模や担当業務に違いがありますが、おしなべて昨今の相次ぐ法令改正、内部統制、コンプライアンス等の動きを通じて、社内における法務部門の役割や組織は大きく変化しつつあるようです。
そのような状況の中、実際の現場では今何が起きていて、どのような課題を抱えているのか、また、法務担当者は日頃の実務を通じて、何を考え、何を悩んでいるのか、他社の実情については、なかなか伺い知ることができません。
そこで、本座談会では、業種の異なる企業の法務部門の第一線で活躍されている若手・中堅法務担当者7名をお招きし、“法務部門をとりまく状況・課題”、“法務担当者の実務上の問題意識・悩み”、“法務部門・担当者に求められる要素”などについて忌憚なく語っていただくことにより、実際の現場で起きている課題、また実務を通じた問題意識・悩み・興味関心を明らかにし、読者の皆様に共有いただくとともに、惜しみなく呈示いただいた問題解決のための手法などについても明らかにするものです。
座談会出席者一覧(2008年当時のもの)
勤務先 | 在籍年数* (法務経験年数) |
担当業務(経歴) | 法務担当者数 | |
A | 商社 | 12年目 (5年) |
営業を経て、法務に配属。現在は事業部門の法務相談、訴訟、インターナショナルコントロールを担当。 | 数十名(うち、女性2割) 日本の弁護士資格取得者あり ニューヨーク州弁護士資格取得者あり |
B | 食品 | 5年目 (16年) |
メーカーでの法務を経て、現在の会社に入社。現在は国内、海外を問わず、広く業務を担当。 | 十数名(うち、女性3割) ニューヨーク州弁護士資格取得者あり |
C | 電機 | 12年目 (12年) |
独禁法担当、著作権担当を経験。現在は契約推進を担当。 | 数百名(うち、女性2割) 日本の弁護士資格取得者あり ニューヨーク州弁護士資格取得者あり |
D | 食品 | 4年目 (8年) |
メーカーでの法務を経て、現在の会社に入社。現在は不動産、債権管理回収、会社法(株主総会)、金融商品取引法(有価証券報告書)、その他国内法務一般を担当。 | 数十名(うち、女性4割) ニューヨーク州弁護士資格取得者あり |
E | 製造 | 8年目 (8年) |
入社以来法務一筋。現在は国内契約、国内訴訟、コンプライアンスを担当。 | 十数名(うち、女性5割) 国内外の弁護士資格取得者なし |
F | 通信 | 5年目 (3年) |
現場を経て、法務に配属。現在は国際投資M&Aの契約交渉、契約書作成を担当。 | 数十名(うち、女性3割) ニューヨーク州弁護士資格取得者あり |
G | 運輸 | 10年目 (3年) |
現場、人事、国内留学を経て、法務に配属。現在は法務相談、契約審査、訴訟を担当。 | 十数名(うち、女性2割) 国内外の弁護士資格取得者なし |
1 各社の法務部門の現状と課題
各社の法務部門所管業務
司会 法務部門というのは、それぞれの会社の業態や歴史・風土などに応じて、その規模や担当業務に違いがあるように伺っています。まず、本日ご参加のみなさんの所属する法務部門の所管業務と業務分担についてお聞かせください。
A 契約やM&Aといった営業サポート業務と、予防的なコンプライアンス業務の二本柱を担当しています。総会関係は別の部署が担当しています。
B 大きく分けて三つあります。一つ目が法務的事項で、コンプライアンスの推進や契約書の立案・チェック、訴訟の対応等です。二つ目は、株主総会の関連業務を中心とした、株主・株式に関する業務です。法務部門では主に法定書類の作成を行っていて、株主総会の運営は総務部門が担当しています。三つ目は文書的事項で、社内規程の制定・改廃、社印の押捺などを行っています。そのほかに、取締役会の招集手続や議事録の作成もしています。
M&A関係については経営企画部門の中の専門チームが、また、リスクマネジメントについては総務部門がそれぞれ担当しており、法的サポートを法務部門が行っています。
なお、知的財産権関係の業務は、別に知財部門が担当しています。
C 法務部門は、本社、事業現場、契約担当と大きく分けて三つの部門に分かれています。
本社の法務部門では、①職能全体の人事・企画機能、対外的なロビー活動などの渉外機能、②グループ全体のコーポレート法務機能として、関連する部門と共管で、M&Aや戦略的提携、会社法実務、重要な訴訟など、③グローバルなコンプライアンスの活動の企画立案や監査などを担当しています。
事業現場の法務部門では、本社の戦略的な意思決定や現場のニーズを踏まえて、現場視点でのコンプライアンス徹底の活動や、現場で起こった訴訟、紛争、債権回収、他社との重要なアライアンスなどを担当しています。本社の契約担当部門では、全社で発生する契約関係文書等の草案・審査・交渉業務およびこれに関連する法務コンサルティング業務について、一括して担当しています。
リスクをトータルサポート
D 当社では、グループ会社も含め、基本的に、知的財産権に関する業務を除いた法務関連機能を、法務部門に集約しています。そのため、契約関連業務、独禁法関連業務、債権管理・回収など、取引に関連すること、株主総会の運営、経理面以外の有価証券報告書の作成など、会社の組織法に関連すること、訴訟をはじめとする紛争に関連すること、社内の法務教育・啓蒙、M&Aの法的部分と幅広く担当しています。国内外を問わず、法的リスクがあるものについては、主体になるのはほかの部署である場合もありますが、基本的に法務が必ず関与して進める形にしています。トータルで当社グループのリスクを管理するのがわが部署だという発想で、ほかの部署からすると口を出し過ぎるといわれることもあるかもしれませんが、積極的にいろいろな部署や仕事にかかわり、すべて受け入れている状態です。
法務は何でも屋
E およそ法務という言葉から連想されるものの中から知財関係を除いたものをすべて担当しています。具体的には、国内外の契約関係や訴訟関係の管理、債権回収などを始め、総会の運営やもろもろの事務関係、株式関係の事務も担当しています。
コンプライアンスについては、経営企画部門と一体となって事務局として推進していますし、また、社内教育のための開催している講習会へは、当法務部門から講師を出しています。
また、昨今耳目を集める独禁法(独占禁止法)の遵守も非常に重視しており、社内に独禁法を遵守するための監視委員会を設置し、法務部門がその事務局業務を担うとともに、社内教育も行っています。
そのほかにも、M&A、取締役会の事務局、社印の捺印まで、本当に何でも屋という感じです。
株主総会もサポート
F 知財部門も含め社内各部の契約、M&A、紛争については基本的に法務部門に相談がくることになっています。加えて、社内各部への研修や全社的なコンプライアンス制度構築などを法務部門が担当しています。
これらを担当する法務部門内の業務分担ですが、大きく二つに分かれており、全社的な法務リスクに対応するチームと、営業系・企画系・研究開発系といった個別部署の法務案件に対応するチームに分かれています。社印管理や株主総会については、総務部門主管ですが、株主総会のうち役員答弁については、法務部門が全般的な運営をサポートをしています。
G 法務機能は、本社の法務部門と支社の法務担当が分担しています。
法律相談の関係は、本社内は本社の法務部門、支社内は支社の法務担当が相談を受けて、それぞれ対応しています。
なお、関連事業を統括する部門にも法務担当を置き、グループ会社に関する事案に対応しています。
訴訟については、本社の法務部門と、当該訴訟を所管する支社の法務担当で対応しています。商業登記は本社の法務部門で対応します。知的財産のうち、商標と著作権と侵害事案関係は法務部門で対応していますが、特許等(侵害事案関係を除く)については技術開発部門の中に知的財産を管理する専門のグループを置いています。
また、皆さんからお話が出ていた、コンプライアンス関係や株主総会関係、取締役会関係、社印管理、社内規程の管理は、総務部門が所管しており、必要に応じて法務部門が法的な観点からのサポートを行っていく体制をとっています。
法務を重視する意識は高まっている
G 最近、コンプライアンスというものが社内に伝わってきて、悪いことをしてはいけないという意識としてはかなり浸透してきているのですが、それが日々の業務に具体的にどのように活かされているのかというと、法務部門ではまだつかみ切れないところがあります。
ただ、本社内についていえば、決裁を持ち回っている過程で「法務に確認したのか」という指摘を決裁権者から受けることもあるようで、各部門の社員が法務に相談に来ることが数年前と比較して確実に増えており、意識は高まってきていると思います。そして、そのような中で仕事をした人が、支社やグループ会社に異動することもありますが、その時にその「意識の高まり」を異動先に持っていってくれることで、意識向上につながるのではないでしょうか。
法務担当者の個人名を覚えてもらう
D ケーススタディーは反応がいいですね。
当社でも、法務部長が講師になって、1日かけて、法務的な事例を取り上げて、法的な論点を見つけ出してみんなで討論したり、ロールプレイングゲームのように法務的な対応策や解決策を考える応募型の研修をしています。研修を受けた人にはすごく評判がいいですよ。「法務的な発想」とはどういうものかがわかったという声が聞こえてきます。
また、「問題が起きた時に、法務部門の誰に相談すべきか」というところまで具体的に示して、説明会を行ったことがあるのですが、現場からは役に立ったという反応がありました。「下請法で何か疑問に思ったら法務部のDまで相談して下さい」などと、困ったときは「法務部門への電話」ではなくて、法務部門の「Dへの電話」というところまで明確に伝えると電話をしやすくなるようです。研修で、対応方法などについて細かく説明しても、結局、頭に残っていないことのほうが多いと思いますが、何か問題があったときや、問題らしいことがあったときに、法務部門のこの人に相談したらいい、と個人名まで伝えておくと、顔がみえて相談しやすいという効果が出てくるのかなと思っています。
経営層への法的サポート
司会 コンプライアンスの関係で、先程Cさんが法務部門として、経営幹部の意識をまずは改めさせなければならないとおっしゃっていましたが、法務として経営層への法的サポートはどのようにされているのでしょうか。またそこに伏在する課題もお聞かせください。
社内で社外の視点を伝える
D 法務担当取締役が社長を含め各役員に対して、リーガルリスクについて常々機会あるごとに伝えています。特に大型の提携やM&Aについては、かなり突っ込んだ提案をしています。
特に当社は非上場会社なため、経営層に対して、いわゆる上場会社における株主の視点がなかなか働きづらいところがあります。その中にあって法務部門は、社内において、社外からの視点を伝える部門であるとしての思いを持って仕事をしています。
まずは役員から研修を行う
B 経営層への法的サポートとしては、原則年1回、法務研修を開催して、弁護士にレクチャーをしていただいています。そのほかは、案件に応じて意見を具申しています。先ほどもお話がありましたが、役員の意識が変わらないと、社員も変わらないというのは強く感じているところで、役員研修についても、一般社員と同等、またはそれ以上に行う必要があると思います。
定型的な研修は困難
C 当社も、どうしても案件ベースになりがちです。経営層は非常に忙しいため、一堂に集めることは非効率的でもあり、定期的な啓発の機会は設けにくいのですが、役員クラスが参加する事業部門責任者の会議でコンプライアンスの事故事例を報告し、再発防止策を討議したり、新任の取締役に対する研修を実施したりしています。また、前任の経営トップが「正直な事業活動をしましょう」という考え方を非常に強く打ち出し、「良心に悖るような活動は会社として認めませんよ」と自分の声で出してもらったことにより、それ以来、「正しい営業活動をするんだ、販売活動をするんだ、事業活動をするんだ」という意識が、全社に浸透してきつつあるのかなと感じています。
文句は社長に?
A 当社も案件ごとに適宜経営層に法的なサポートをしています。また、法務が吸い上げる情報も多少ありますので、それは社長に対して毎月定例で法務の課長職以上が報告会を開いています。
そこで感じている問題点として、実質的には、最近、法務の権限が強くなってはいるのですが、社内の規則では、法務は訴訟管理と弁護士選任の権限しかないため、法務がノーと言っても、取引をやめさせるような承認権はありません。それなのに、最近は、法務がノーと言うと取引が実質できない状況になっています。そうすると、経営陣は、たとえば経理的な問題であっても、法務に「これを何とかしておけ」と持ってくるようになるわけです。問題解決は法務に任せておけば何とかなる――信頼してくれている、ととらえればとても嬉しいのですが、実際処理をしていく中で、「何でそんなことを法務に報告しなければいけないんだ」と営業から言われることもたまにあるわけです。「文句は社長に言ってください」とつい言ってしまうのですが(笑)。
役員と法務との遠い距離感
E 不定期ではありますが、社外の弁護士を呼んで、ホットなトピックについてお話をしていただいています。
実際の業務に関しては、一定金額以上の取引案件については必ず事前に法務のコメントを取りつけた上でなければ経営会議や取締役会に上程できないので、そのような場面を通じて間接的なコントロールをしているのかなとは思います。
問題点は、役員とわれわれ法務との距離が少し遠いところではないかと思っています。
役員に必要な法律知識やセンスとは?
G 先ほど説明した弁護士による講演会を年4回程度開催し、それに役員も出席できるようになっています。スケジュールの都合で、実際に出席することは多くはありませんが。それ以外には研修のようなものは今のところ行っていません。個別の案件ベースで、各担当の部門経由で、あるいは、役員から法務部門に直接、相談があれば、その都度対応しています。
ただ、個別案件の対応を超えて「役員に必要な法律知識や法的センス」を法務部門から提供できているかというと、個人的には疑問を感じているのですが……。
意思決定会議へ法務部門長が参加
F 経営層に対する法的サポートには、大きく分けて二つありまして、一つ目は、制度として経営層のサポートで、具体的には、意思決定会議に付議される各種資料について、事前に法務部門長および社内弁護士によるチェックを受けなければ、付議できないことになっています。二つ目は、実際にそのような意思決定会議に法務部門長が参加し、発言したり、役員からの質問にすぐに対応できるようにしていることです。
G 当社でも、法務部門長は取締役ではないのですが、取締役会と常務会にオブザーバーとして出席しています。意思決定会議への参加という意味で、法務部門がかかわっているという体制になっています。
他部署へのサポート・連携方法
司会 法務部門は他部署からどのように見られているのでしょうか。特に、法務部門の他部署や子会社へのサポートや連携方法についてどのようにされているのかお聞かせください。
事業サイドに立ったサポートが必要
B 各グループ会社については、基本的には法務部門がないため、当社の法務部門が相談を受けています。社内、グループ会社を問わず、丁寧なサポートを心がけていますので、それなりの評価を得ているとは思うのですが、ちょっとやり過ぎかなと感じる場面もあります。たとえば、依頼してくる部署では契約書を読まないで、それは法務部門の仕事だろうという割り切りをしているケースも見られます。
では、「法務部門をどのように見ているのか」というと、昨年グループ会社を含めてアンケートを実施しました。その答えとして、専門性や信頼性等については結構高い評価をもらいましたが、一方で、「法的にだめ」といって終わるのではなく、「ではどうやって解決するか」という点にまで踏み込んだ、事業サイドに立ったサポートがもっと必要だという指摘をされました。
また、要員の問題もありますがスピード感がないという指摘や、法務の人は難しい人が多く相談しにくいとの指摘などもありました。親しみやすさという点でも心がけてほしいというコメントも多かったです。
対応スピードが問題
C 当社もBさんのところと同じような感じです。従来、法務は黒子的な職能だったということもあり、現場への対応には非常に気をつかって、丁寧な対応をしてきているため、信頼感は持たれているようですし、契約対応や紛争を処理する上では必要欠くべからざる存在だという意識も、おそらく持ってもらっているのだろうと思います。
一方で、やはり対応のスピード感の問題があります。「契約書を見てください」と持ってきたら、1週間、2週間たっても返事がないという話や、あるいは最終的に決裁権限を持っているわけではないので、踏み込んだ回答を避け、現場任せにするということはあります。また、違反要件が決まっているようなものについては、「法律上できないことは全部だめ」と言えますが、たとえば独禁法などの非常に幅のある解釈ができるような場面で、非常に堅い回答ばかりしてしまうと、現場は何もできなくなってしまうという声については、われわれとしても意識を改めていかなければならないと思っています。
また、当社でも、やはり現場で契約書を読んでもらえないという問題があります。もちろん中には契約書を読む人もいますし、非常に意識が高くて、「こういう対案を作ってみました」と、自分で契約書を修正してくる人もいるのですが、ほとんどは、「ごめんなさい。まだ読んでいません」と舌をぺろっと出して現場の担当社員が持ってくる契約書に、法務担当者が「うーん、仕方がないな」と対応しているのも実情です。ではどのようにして現場に契約書チェックが自分の仕事であるということを理解してもらうかということが重要になりますが、そのための方策として、法務が多くの人員を抱えていれば、将来的には人事のローテーションを通じて、契約のノウハウを持った人たちが現場の中に入って、そこで宣教師的に自ら契約を考えるという風土を醸成するということもできるのかなと最近感じています。
営業部門の満足を得るため日々努力
A 最近の法務は、コンプライアンスということを強調するところもあって、他部門が過大に評価してくれているとしばしば感じます。たとえば当社では、従来、さまざまな「業法」は法務の管轄の範疇外で、各業の担当部門が独自に所管していたのですが、法務がコンプライアンスの活動の中であらゆる法を「守れ、守れ」と言うものだから、「だったら、法務が研修もしてください」と言われてしまうこともあります。
営業へのサポートについてはとても重要な任務だと考えています。彼らに社内のお客様として満足してもらうように日々努力しています。なぜなら、「法務に相談しなさい」という社内規程はないため、努力をしなければ誰も法務に来なくなる。そうなると、法務というものは間接部門で、その運営費は営業部門などが負担しているわけですから、そんな必要でもない部署に金が払えるかということになるので、存続していくためにはそれなりに評価してもらわなければいけない。ということで頑張ってサポートする。営業に「来い」と言われればどこへでも行きます(笑)。
担当部署とともに取引をデザインする
F 社内の制度として、一定の契約は必ず法務に相談に来る仕組みができています。そのため当社の法務は、ビジネススキームがすべて決まった後で案件が法務に来て、ドラフティングだけしてくれとか、リスクだけ挙げてくれ、といった最後の処理だけをやらされるのではなく、かなり早い段階から法務も案件に関与できるので、その相談を通じて取引をどうデザインしていくのかというところにまで踏み込んで仕事ができますし、そのような仕事ぶりを通じ、自分で言うのは変ですが、社内から一定の信頼を得られていると思っています。
相談に来やすいよう敷居を下げる
G 最終的に決断するのは各事案を遂行している部署ですので、法務部門はその判断のために何が必要なのだろうかと考えるサポート役だと思っています。たとえば、担当部署が、契約を締結するかどうかを判断するに当たって、法務部門はこういうリスクがありますよと指摘して、担当部署がそのリスクを考慮して決断する、というように。その役割については、各部おおむねそのように考えているようです。
当社の法務部門は、積極的に社内のあちこちに出向いていって問題探しをするわけではありません。そのため、相談に来てもらわないと問題を見つけようがありませんので、「相談に来てください」と敷居を下げる雰囲気作りをしています。
ただ、先ほども契約書丸投げでチェックを依頼されるというお話もありましたが、敷居を下げる一方で、事が進む中で「あのとき法務がいいと言ったではないか」と言質をとられ、アリバイ作りのようだと、法務担当者として悲しい思いをしたこともありました。
また、先ほどDさんから担当者の名前を出すと皆さん相談しやすいというお話がありましたが、それはそのとおりだと思います。たとえば私たちが弁護士に相談するときにも、「○○弁護士に相談に行こう」と思うのであって、弁護士なら誰でもいいというわけではありません。おそらく法務部門のスタッフも同じような感じで各部署の担当者から見られているのではないかと思っています。そういう意味では、属人的にその人を信頼してもらうということは非常に大切ではないかと思うのですが、一方では、その結果、一定の人に仕事が偏ってしまうという問題が生じてしまいました。そこで、最近は法律相談の受付ルールを、すべての話について、まずグループリーダーが聞いて、業務の平準化という観点も考えながら部員に仕事を割り振るという仕組みに変えました。
ただ、そのルール変更との因果関係は不明ですが、受付ルールを変更したら相談件数がぐっと減った感じがして、敷居が高くなったのではないかということを多少気にしています。「○○さんなら相談しようと思うけれど、そうでないなら相談しない」というのでは、組織としてあるべき姿ではないと思います。そして、個人個人との信頼関係と業務量の平準化の両立は悩ましい問題で、これからの課題だと思っています。
法務が地の果てまで出向く
E 当社では法務の人数が少ないこともあり、基本的にこちらから契約案を提示しなければならない場合は、まず担当者にドラフトをしてもらいます。契約書の形にならない場合は、「とりあえず言いたいことだけ箇条書きでいいからまとめてきなさい」と、項目を全部まとめてもらい、法務がそこから契約書の形を作ることにしています。そうでないと、皆さんがおっしゃたように、「何も考えないで全部お任せ」となってしまうと困りますので。
当社は公共事業も多く手がけているのですが、公共事業での契約は基本的に内容を変えることができません。そのような契約書に慣れている担当者が、民間のお客様から提案された契約書でも変わらないだろうという前提で契約をされると困ったことになってしまいますが、ここにも「お任せ」という意識に通じる問題があるように思います。そのような、「契約書をぜひとも変えてやろう」という意識が薄い人がいるのも否めない事実で、それは問題だと思っています。
一方、大型案件の場合には、逐条でディスカッションを行い、落としどころを決めたりしています。とても手間はかかりますが、それをやらずに痛い目に遭ったことが何度もあるので、それは本当に欠かせないなと思っています。
基本的に契約の交渉は、法務が影で台本を書いて、営業の担当者に進めてもらうことがほとんどですが、大型の案件については、私たち法務が地の果てまで出向いて(笑)、お客様と侃侃交渉することにしています。法務の人数が少ないため、大変ですが、案件によってはそれぐらいのサポートをしないと、専門部署としてはいけないのではないかとも思います。
社内からの評価については、当社の法務も各部署に面倒見よく対応していますので、毎年の社内アンケートでは、それなりに評価をしてもらっていると思います。ただ、当社では、一定金額以上の契約については、法務のコメントをとらない限りは経営会議等に上程できないことになっていますが、昨今コンプライアンスを強調しているせいか、細かい契約書でも何でも法務に来ます。その中で、その契約書の内容をよりよいものにしようと相談に来ている人が大半だとは思うのですが、場合によっては法務のお墨つきをもらうことや、後で何かあったときに、「法務がこう言ったからいいんだ」と言質をとるようなものも見受けられることもあります。そこで、そのようなことがないように、それなりの精度を持って見なければいけないなということは常々思っています。
現実的な回答を導き出す難しさ
E 社内アンケートの中で問題点として、法務の回答は現実的ではないということを指摘されることもあります。「契約をとりたい営業」と、「リスクを洗い出して待ったをかける法務」といった構図がどうしてもあります。私たち法務も、会社の人間として、契約をできるだけとってほしい、さはさりとて法務としてリスクは最小限に軽減しなければいけないということで、この相反するものをうまく調和させて現実的な回答を導き出すというのが難しいところです。
法務部門は「問題解決部署」
D 他部署との連携方法については、仕事の進め方として、たとえば、工場の偽装請負問題については、法務部門と生産部門の管理部署とが連携して一緒に対応しています。営業部門で商品につける景品の法的問題点について説明会をするとなれば、法務部門だけでなく営業の管理部門や、現場の企画部門と一緒に行います。現場の牽引者と一緒に事に当たることで、現場への落とし込みが、うまく図れるように心がけています。また、皆さんからいろいろお話が出ましたが、「法務部門は面倒見がよい、法務部門が仕事をしてしまう、いろいろな部署から仕事を振られる」というのは当社も同じ状況でして、現場の感覚として「とりあえず法務に聞いておけ」というのが実情です。明らかに法務の仕事じゃないだろうと思うような仕事が持ち込まれることも結構あります。背景には、法務部門が、単に「法律に関連する仕事をする部署」ではなくて「問題解決部署」という位置づけでとらえられてきているのではないかということがあるのではないでしょうか。そのように思われているということは、信頼してもらえているということかなと思い、本当にありがたいことです。法律的な部門というよりも、とにかく問題を解決する部門、契約書を見るだけではなくて、事業としてこういうのはどうだろうかと、そういうところまで踏み込んで提案する、何か相談したくなる、法務部門と他部署とは、そのような関係になってきているのかなというのを感じます。
法務が担当すべき本来の業務に集中する
D 当社の法務部門は、20年ぐらい前にゼロから作り上げてきた部門でして、「とにかく仕事を見つけてこい、仕事なんていうのはとってくるんだ」という発想でこれまでやってきましたが、そうやって仕事を引き受けてきた結果、他部署との関係を築いてこれたのかなと思います。
もっとも、一方では、法務部門の仕事をもっと絞ったらいいのではないかという声があるのも事実です。現場の担当者が契約書を見ないで法務へ送ってくるということも結構ありまして、「ダイレクト送信」と言うのですが(笑)、現場で担当者が取引先から受け取った契約書を、内容も確認せずに、そのまま「ダイレクト送信します」とだけコメントしてメールを転送してきます。それが仕事のやり方だと思っている。
これまでは、法務部門というものを作り上げるため、法務部門に仕事を集めてくることが仕事だということで来ましたが、そうやって集めてきた結果、逆に、今、現場が思考停止になっている部分が見え隠れしてきているようなことも感じています。極端な話、会社の業務は、多かれ少なかれ法律に関係していますので、誤解を恐れずにいえば、何でも法務の仕事になり得るのですが、あえて、「法務が本当に受けていいのか」「これは法務ではなく、現場の担当者に考えてもらい、処理してもらうべき事柄ではないのか」と考え、「あえて、仕事を現場に戻す」という、法務部門として、次のステージに入ってきているのかなということも少し感じています。
先ほどGさんが鋭く言及された「個人宛の相談」が増えてしまうという状況は当社も同じです。現状は、属人的な仕事、個人について回っている仕事が結構あります。その属人的な仕事をどのようにしたら法務部門の仕事、すなわち、組織の仕事になっていくのかということは、常々思っています。個人的なつながりが切れると全然案件が法務に上がってこなくなるのだとしたら怖いことです。まずは、個人としてのつながりを作り、そして、個人としてのつながりをどうやって組織としてのつながりへ育てるのか、個人のつながりと組織のつながりのバランスをどのようにとるかというのは悩ましい問題です。
他社の法務担当者との交流――人脈をいかに築くか
司会 社内だけでは検討し難い課題などを考えるためには、他社との交流も必要でしょう。また、ビジネスは「人脈」が重要だと言われていますが、皆さんも最新の法務事情等を情報交換するべく、他社の法務担当者との交流はあるのでしょうか。
F グループ企業の中であれば勉強会的な色彩での交流はありますが、日頃仕事でお付き合いさせていただいている法務担当者とは、勉強会というよりもざっくばらんな懇親会を通じた交流をさせていただいています。
A 同業関係の情報共有の場はあります。私たちはまだ若手・中堅ですが、管理職になれば、連絡網・情報網というものが大事になると思います。ですから、若いうちからそういう付き合いをしておくのが大切かなと思います。
D 他社の法務担当者との定期的な交流はありません。個人的なつながりで他社の法務担当者との交流はあります。
E さまざまな業種の方との情報交換的な交流をしています。当社の顧問弁護士が発起人になって、そこの若手弁護士と事務所の顧問先企業の法務担当者が集まって、最近の法的な話題について、ディスカッションをしています。
勉強もさることながら、先ほどAさんがおっしゃったみたいに人的なつながりを密にして、なかなか聞けないお話を内々に伺えるような面でもとても役には立っています。
C 当社の取引先である、あるメーカーの法務担当者との交流会があります。年に2回ぐらいずつ集まって、勉強会の傍ら、お互いの悩みを共有しています。
G 定例的な会議が二つあり、一つが、同業者が集まる会議をテーマ別に年3回行っています。課長クラスが集まる総論的な会議、賠償問題について語り合う会議、そして、商標関係の会議です。それ以外では、同じ性格を持った企業が集まって、年に2回持ち回りで会合を行っています。その時々の興味関心から議題を決めて意見交換をしています。
B 同業他社との定期的な情報連絡会のほか、外部団体の勉強会への参加を通じて、法務担当者とのネットワークを構築しています。
2 実務上の問題意識・悩み・興味関心
司会 皆さんが日ごろの実務を通じて、お悩みのことや、また興味関心があることについてお話を伺いたいのですが、いかがでしょうか。
法務部門が監査部門的になっていく
D 最近は、偽装請負や下請法などの行政法規への対応を求められるケースが増え、当社のスタンス、姿勢、判断が求められることが多くなっているように感じます。
行政法規への対応は、頼るべき情報がきわめて少ない。相談する弁護士も少ない。行政の判断を踏まえつつも、頼ることのできる情報が少ない状況の中で、当社としてどのようなスタンスをとるか判断しなければならない。そうすると、法務としても安全策をとりたくなり、少し過敏とも思われるような対応策をとるようになってきているんじゃないかなと思うこともあります。
その結果、法務部門が、現場と一緒に問題を解決するという役割よりも、必要以上に「クロ」になりそうなことを見つけ出すことに躍起になって、いわば監査部門のような方向に流れて行ってしまっていないか危惧しています。
司会 これは事業そのものの幅をだんだん狭くしていくということにもつながってしまいますね。
D そうですね。
有事の際のフォロー方法
E 独禁法関係では、刑事手続に入った場合、法務としてどのようにフォローしていけばいいのか非常に悩ましいところです。民事的な話ですとわれわれにもそれなりに経験があるので、フォローはできるのですが、刑事的な場面になってくるとまったく経験もないですし、フォローの方法を書いてある本もありません。実際、取調べが連続数十日ということもになるので、そういうときにメンタル面でどのようにフォローしてあげればいいのか、またどのようなアドバイスをすればいいのかなと困ります。また、独禁法の専門弁護士を確保するのは本当に大変だと思っています。一歩出遅れると、同じ案件で他社の依頼を受任されてしまいますので。
部内の情報共有方法
F 部内の情報共有について伺いたいのですが、社内の法務ノウハウを皆さんはどう共有されているのでしょうか。当社では、共有フォルダーに意見書を保存したり、データベースに過去の契約書を保存してはいるのですが、本当に何かが欲しいときは、属人的に「何々さんに聞こう」となったりして、仕組みとして十分に活用されているとは言えません。
ここでよいシステムを作り、法務部門内だけではなくて、法務部門以外も法務の過去ノウハウにアクセスできるようにすれば、法務に問い合わせることなく、自分で問題解決できる場面も出てくるのではないかなと思います。皆さん、ノウハウの共有などで工夫されていることはありますか。
法務の仕事は属人的
D 難しいですね。当社でも、ノウハウの共有がなされていないということは問題視されていますが、なかなか思うように共有できていません。法務の仕事は、おっしゃるように属人的で、誰かに聞くと「彼しか知らない」となる。「その人がいなくなったらどうするんですか。あした交通事故に遭ったらどうなるんですか」と言うと、「誰もそんなことを予定していない」となる。法務部門の一番のリスクは、実はそのあたりにあるのではないか、とも思っています。
部内会議で情報共有
B 当社も、データベース化していますが、それに加えて、2週間に1回、部内会議を開き、その場で一人10分程度の持ち時間で、手がけている案件を説明しています。弁護士に相談した場合やセミナーへ行った場合はその結果や内容もフィードバックするなど、法務部門内での情報の共有化をしています。
D 当社でも同じような部内会議が月1回あり、一人5分程度で、前月に行った主要な業務を報告しています。しかし、どうしても報告して終わりになってしまい、出席者もほかの報告者の報告内容にあまり関心がないようで、なかなかうまく機能していません。
F 海外の弁護士事務所では、個々人が作成した契約書はサーバーに自動的に記憶され、誰もがそれを見られると聞きました。そのようなソフトを当社も導入してほしいものですが、なかなか実現しません。確かに属人的に聞けば解決するのかもしれませんが、忙しい時にはタイミングを逸してしまい、聞けないまま仕事を進めてしまうこともあるのです。そういう状況をなくすためにもサーバーでの情報共有をより徹底できないものかと思っています。
情報共有システムの構築
C 当社ではそれをすでに導入しています。
どのようなシステムかというと、まず営業など現場の担当者が最初に案件の経緯、相手先などをシステムに登録すると、本人が所属している上司のところに情報が行き、上司がその担当者が登録した内容を確認します。そこで上司が承認をすると法務担当者にその案件が回ってきます。
現場での作業は最初の登録で終了するのですが、後のメールのやりとりも自動的にサーバーに保存されるようになっています。このシステムは去年秋から本格的に導入しているのですが、ただ、その環境を全員が使えるわけではありません。関係会社でイントラ環境が使えないような部署だと、そもそもシステムにアクセスできないという問題も残っています。
皆さんのところでもデータベースを構築されていると思うのですが、それにかかる費用の計算や、判断を誰がどのようにされているのでしょうか。システム導入に当たり、実際どれぐらいが適正な価格なのかなというのは、われわれ文系の人間だと判断できないところがあって、どのように判断すると費用対効果がつり合うのかなというのが悩みどころです。
相談内容をすべて記録に残す
G 法律相談に関しては、基本的に「相談記録」を作成することになっています。相談内容と回答について、相談記録を作成し、部内で回覧します。回覧後、関係資料とともにスキャニングしてPDFにしたものに件名を付けてデータベースに保存し、法務部員は、必要に応じて過去の事案を検索できるようにしています。その記録に全部書くので、前の担当者に聞かなければいけないということは基本的にはありません。
相談者に回答するのは、口頭でもメールでもいいのですが、それを部内に回覧して情報共有化するとともに、後々の記録として残すために全部その記録を作成しているのです。これは、相談案件が少ないころから始まっていた仕組みなのですが、相談案件が増えてくると、記録作成に相当時間がかかってしまい、大変ではあります。しかし、2年前ぐらいに自分が手がけた案件でも、その記録を読むと、すぐぱっと思い出せるという効果があります。前の担当者が手がけたものでも読めばおおよそわかるという点では、ある程度時間をかける意味はあるのかなと思っています。
F その報告書の作成率はどのくらいですか。
G そうですね。上司への復命書も兼ねているので、軽微なものを除いては全部作成しています。
相談だけではなく、打合せ記録もすべて記録を作成するというのが法務部門のルールなので、作成しない日はなく、1日に2件とか3件は必ず作成していると思います。
部内全員に回覧をするので、それを読むと、ほかの人がどのように案件を処理したかというノウハウは見えてくるのですが、いかんせん読む時間がないという悩みがあります。
D 案件処理のノウハウを共有する仕組みとしては、あるべき姿の一つですよね。一人の回答が全員の回答として共有できるというのは、素晴らしいですね。
司会 ほかに法務部門固有の問題というものはあるのでしょうか。人事ローテーションにおいて、ほかの部署とは違った点があるようですが。
長い付き合いを前提とした人間関係
D 対人関係の面で言いますと、法務部門というのは、仕事柄、あまり社内異動がなく、「3年我慢すれば別の部署へ異動する」というわけではないので、そのような長い付き合いを前提として上司、部下、同僚との人間関係を作っていくということが法務部門特有の課題としてあるのかなと思ったりしています。
F 異動が少なく長い付き合いを前提とした人間関係を築かなければならないがゆえに、あまり踏み込んだ発言をせずに、相手の畑を極力荒らさないような組織文化になりがちで、お互いに遠慮し合う危険性もあるように思います。
モチベーションをどのように維持していくか
D また、モチベーションの面で言いますと、法務の仕事の中にも、いろいろな仕事があり、実はルーチンな仕事も結構あります。膨大な量の定型的な契約書をチェックするような単調感のある仕事です。M&A等の、規模が大きく華々しい仕事がありますが、法務部門の皆が皆M&Aばかりをするわけにもいきませんので、誰かがルーチンな仕事もやらなければなりません。そういうルーチンな仕事を担当する者のモチベーションをどうやって維持していくか、ということも、法務部門の課題としてあるのかなと思っています。ローテーションをすることも一つの方法ですが、得てしてM&A等の華々しい仕事は、人についてしまったりしますので、難しいですね。
3 これからの法務部門・法務担当者に求められるもの
司会 これからの法務部門・法務担当者に求められるものはどういうものでしょうか。また、法務部員として今後の夢をお聞かせください。
「ポスト・コンプライアンス」
A これからの法務部門に求められるものは、ポスト・コンプライアンスなのかなと思っています。「コンプライアンス、コンプライアンス」と言って、問題があるごとに大きくなってきた法務は、社内的にも発言力が高まってきたと思うのですが、それに対して実態がついてきていないのではないかという感があります。信用を失わないためにいろいろ体制を整えていく必要があるのではないかと個人的には思っています。
「戦略法務」を考える人材
A 法務担当者に求められることとしては、法務は今までサポート役だったため、「戦略法務」ということをあまり考えていなかったかもしれませんが、ここまで法務の社内での発言力が高まってきたことも背景として、「戦略法務」を考える人材が求められるのではないかと思います。
法務部員としての夢ですが、私は日々案件がおもしろければいいと思いながら仕事をしているので、1件1件案件が育っていくのが一番うれしいのです。現場とともに法的検討を重ねた結果、大型案件がとれたときには喜びを感じます。
法務に相談すべき案件の再考求める
B 法務部門に求められるものは、これまではどちらかというと「法務=サービス部門」のような感覚で、来た案件についてサポートやサービスを提供していました。しかし、そろそろ何でもかんでも受けるのではなくて、法務に相談すべき案件と自分で考えるべき案件の仕分けを、依頼部署の側でもさせるようなアドバイスを返していかなければならないのではないかと思います。特に、今日、皆さんのお話を聞いて強く感じました。
法務担当者に求められることとしては、これから社内弁護士の数が増えてくるのではないかと思いますが、その社内弁護士との違いをどう出せばよいのかと思っています。自分は弁護士資格を持っていませんが、一体どういうところで存在意義を明確にするのか、そのためにはどういう点をアピールしなければいけないのか。単に法律を知っていますというだけでは社内弁護士には勝てませんから、プラスアルファの付加価値をつけないと、法務担当者として通用しなくなると感じています。
「法務部門はコストセンター」という意識
C 法務部門はコストセンターだということ。基本的にその意識が非常に重要なのではないでしょうか。特に人員も多い当社では、費用がかかっているという意識を組織としてもメンバーとしても持っておかなければならない。それに加えて、社内の位置づけも上がってきているため、常に事業に貢献するという視点で仕事をすることが非常に大事なのではないかなと日々感じています。
自ら積極的に仕掛けていく姿勢
C これからの法務担当者に求められるものは、積極的に自分から何か仕掛けていくという姿勢で仕事を進めることではないかなと思っています。法務部員から前向きに付加価値をつけないと、それこそ法務部門は右から左へ流れてくる案件を処理しているだけではないかと言われては、存在価値も否定されることになりかねない。そのため、特に若手を中心に、そのような姿勢で仕事をしていくことが重要だと思っています。
私の夢としては、法務部門は、専門的な知識や、事業部門との調整、若くして会社の中枢で会社の意思決定にかかわる機会が非常に多いと思いと感じていますので、そこを活かして、対外的に当社の立場をうまく訴求し、当社の事業環境を改善できるような仕事を将来的に携わっていけたらいいかなという思いを持っています。
ビジネスマンとしてのセンスを磨く
D 皆さん感じられていることかもしれませんが、法務担当者だからこそ必要とされるような特殊な能力なり資質というものは案外少なく、実は、ビジネスマンであれば当然持っていなければならないようなこと、たとえば自分の仕事に責任を持てるとか、問題点を見つけ出せるとか、納期を守れるとか、話を聞いたり文章を書けるとか、そんなことではないでしょうか。ただ、そういう当たり前のことが強く求められるのが、まさに法務部門なのかなとも思っています。
法務という仕事は、法律を扱っている仕事ですので小難しそうに見えますが、実は経験を積めば誰でもできる。むしろ、社内外で一般的に思われているような、専門的な部署だというイメージに隠れないで、自分のビジネスマンとしてのセンスを持って仕事に取り組むことが、実は、必要とされているのではないのですかね。専門性を強調して、会社法だとか独禁法だとかという枠組みで業務をすごく細分化して自分の領域を定めてしまうと、自分の「専門」領域以外の仕事をしなくなる、できなくなる。そうではなくて、仕事を受けたからにはとにかく自分が責任を持ってやる。広く法務という切り口から案件に取り組んでいくということが法務担当者として必要だと思っています。そこには、当然、法律以外の知識や経験、情報網、そして何より、好奇心などが必要だとも思っています。
本来法務部門がやるべき仕事を絞る
D もっとも、法務部門は、さまざまな部署からのいろいろな依頼を輻輳して受けているのが現状で、仕事が回らなくなってきているなという感じを持っているのも事実です。Bさんもおっしゃっていましたが、これからは本来法務部がやるべき仕事を見極めていくというステージに変わってきたのかなと感じています。限られた法務部門のキャパの中で、本来やるべき仕事に法務の力を集中していくことが求められてくるのではないかなと思います。
私の法務部員としての夢は、会社の中で、誰かが新しいことに挑戦するときや悩み事や問題が生じたときに、「とりあえず法務部門やDをかませておけ。何かいいアドバイスをもらえるぞ」というような存在になることです。法律的なことに加え、何か役に立つことを伝えられるコンサルタント的な法務マンになりたいと思っています。
現場との乖離をいかにして埋めていくか
E 私は、これからの法務部門や法務担当者には、求められる弁護士像とオーバーラップしてしまうのですが、法律論ではこうだけれども、現場との乖離をいかにして埋めていくかというのを親身になって考える法務を今後も目指していくべきではないかと思っています。どうしてもデスクワークが多くなりがちですが、積極的に現場に出て、たとえば、お客様との交渉もしかりですが、お客様に怒られに行くときも一緒についていったり、直接契約の相手方の思いも自分で感じることによって経験が積み重なって、今後のよりよい法務としての仕事ができるのではないかなと思っています。私も入社以来法務一筋で、法務で純粋培養された「現場を知らない人」だと営業等他部署の人からどうしても思われがちなので、できるだけそう思われないように、またそういう結果が仕事に反映されないようにしたいです。現場の思いだけに偏ってしまうと、中立的な、客観的に見るという法務として重要な視点を失ってしまうので、そのバランスを取りながら、現場をなるべく多く見ながら経験を積み重ねていきたいと思っています。
そして、夢というほどの大それたものではありませんが、仕事を通じて、「あなたに頼んでよかったです」とか、「ありがとうございました」というメールをもらったり、言ってもらうととても嬉しいです。そして、たとえば以前に頼んでくれた人が継続してずっと自分に頼んでくれると、自分の仕事にそれなりに満足してくれているんだなという実感も持てます。顧客があまり増えてしまうと仕事が大変になってしまいますが、「ありがとう」という言葉を一人でも多くからもらえるようになりたいと思っています。
「法務」という名前を変えるべき
F 法務部門に3年間所属して、法務部門というのは、法務という看板から連想される法律の専門家たちという部署というよりも、「いかに問題を発見するか」、「いかに問題を解決して社内の実務を進めていくか」という仕事が中心になっているのだなと思います。これは私が取引法務を担当しているからかそう思うのかもしれません。
先ほどDさんがおっしゃったように、法律の知識よりも、むしろ、ヒアリングを通じて何が問題なのかを把握する力、それを踏まえ契約書にする力、そして相手と交渉する力と、ビジネスパーソンとして必要な力の方が重要だと考えます。
少し突拍子もない問題提起かもしれませんが、「法務」部門とか企業「法務」という名前さえも変える可能性を検討すべきではないかと個人的には思います。採用活動の場面で学生に話をすると、必ず質問として、「私は法学系の院生ではないのですが法務として採ってもらえますか」とか、「法務に行くには法律系の資格は要りますか」とかいったことです。先ほど申した法務担当者に求められる素養から考えると、法務部門は、「法務」という名前があるばかりに優秀な学生や社内外の法務への異動希望者を取り逃しているように思います。今後各社の法務責任者はその点も考えるべきなのではないかなと思っているのです(笑)。
私の夢は、日本にとどまらず、世界の企業法務という職種のプレゼンスが少しでも上がっていくような取組みをしたいと思っています。
「社内を唯一の顧客とする弁護士」に
G これからの法務部門・法務担当者に求められるものとして、私が目指していることは、「企業法務というのは社内を唯一のお客様とする弁護士のような存在だ」ということです。これは、会社の留学制度で大学院に派遣されていたときに、教授から聞いた言葉です。私はそういう存在になろうと心がけています。私なりにもう少し具体化すると、社内で相談してくる人に、きちんとスピード感を持って代案やアドバイスも含めて返していけるようになることがこれからの法務部門に求められることであり、私自身の課題なのかなと思っています。
では、具体的にどういうスキルが必要なのかというと、個別具体的な法律の知識も重要ですが、ビジネスパーソン全般的に必要なスキルだと思うのです。その中でも、まず相談者のニーズをつかむことが重要なので、きちんと情報を聞き出せる質問のスキルというかヒアリング能力が重要だと思います。また、こちらの思っていることをきちんと伝えるという意味で、法律の専門的なことをわかりやすく説明できる力も大切なのかなと思っています。
少し観点が変わりますが、法務の人材育成はOJT中心なので、人材育成のためのスキルも、長年持続的に法務セクションが発展していくためには必要なのではないかと思っています。
法務部員としての私の夢は、まず法務部門の一員という意味では、「法務部門はきちんと一緒に考えてくれる、だから法務部門に相談すれば安心だ」と社内の人から言ってもらえる程度に法務の信頼感を高めることができればと思っています。もう一つは、さまざまな部署や関係者がかかわってきて、複雑になっている問題も問題解決に向けて、問題の交通整理がきちんとできるような法務部員になりたいと思っています。
司会 以上をもちまして座談会を終了とさせていただきます。本日は、お忙しいところ長時間にわたりありがとうございました。
(完)