SH4112 中国:中国からの撤退方法・経済補償金支払の近年の傾向と対策(2) 鹿はせる/小澤尚子(2022/08/25)

そのほか労働法

中国:中国からの撤退方法・経済補償金支払の近年の傾向と対策(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 鹿   はせる

弁護士 小 澤 尚 子

 

(承前)

2 現地法人を解散・清算して撤退する場合の手続及び実務上の留意点

 中国の現地法人を解散及び清算する場合、基本的に中国の会社法が適用されるが、中国の外商投資法や行政法規で特別規定が定められている場合にはそれらの規定が適用される。

 会社法上の解散事由は、①会社定款に定める営業期間が満了したとき又は会社定款に定めるその他の解散事由が発生したとき、②株主(総)会が解散の決議を行ったとき、③会社の合併又は分割により解散が必要なとき、④法により営業許可証が取り消され、閉鎖を命じられ、又は取り消されたとき、⑤人民法院が会社法182条の規定に基づき解散命令を発した場合の5つである(会社法180条)。会社法182条[1]が定める人民法院の解散命令はデッドロックに陥った会社を想定しており、通常の撤退であれば、②の株主(総)会の解散決議による手法が用いられるであろう。

 事業がネガティブリスト上の規制業種に該当しない外商投資企業は、解散・清算に際して、別途商務部門による認可を受ける必要はない。会社法に定める手続に従い、清算委員会の成立(会社法183条)→債権者への通知・新聞での公告(同法185条)→清算案の作成及び株主(総)会又は人民法院への確認(同法186条1項)→清算費用、従業員賃金、社会保険費用及び法定補償金の支払、未納税金の納付、既存債権者への弁済、株主への配当(同法186条2項)(会社の財産が債務弁済に足りない場合は、人民法院に対して破産宣告を申請する。同法187条)→清算完了後の清算報告書の作成、株主(総)会又は人民法院への確認(同法188条)→清算報告書を登記機関へ提出/会社抹消登記の申請(同法188条)を経て解散する。但し、前提として、中国において解散・清算は債務超過のまま行うことができないため、増資等の方法により損失を補填して債務超過を解消した上で解散手続を行うことが必要となる[2]

 解散・清算による撤退について、実務上よく問題となる事項は以下のとおりである。

 

⑴ 従業員との間の労働契約の解約に向けた交渉

 実務上は、労働紛争を防止し、円滑かつ迅速に手続を進めるため、労働契約を一方的に解除せず、従業員との間で合意解約をすることが多い。使用者からの申出に基づき協議の上で合意解約をする場合や、使用者側の事由により労働契約の解除をする場合その他労働契約法46条に定める場合には、労働者に対し、経済補償金の支払が必要になる。

 経済補償金は、原則として、当該従業員の「労働契約終了前12ヶ月間の平均賃金」(月平均賃金)×「勤続年数」[3]で算定した金額となるが、会社の過度な負担を軽減する見地から、会社所在地の前年度の労働者の月賃金の3倍を上回る労働者については上限が定められており、算定における月平均賃金は会社所在地の前年度の労働者平均賃金の3倍の金額、勤続年数は最高で12ヶ月分がそれぞれ上限となる。したがって、解散・清算を行う場合に限らず、経済補償金を検討する際には、まず会社所在地の賃金水準を確認する必要がある。

 また、経済補償金の金額については、撤退の際に従業員から法定金額に加え、月給数ヶ月分の上乗せを要求されることがしばしばあり(中国では、法定金額を「N」といい、上乗せ分の月給を加えN+3といった言い方をすることが多い。)、合意に至るまでに長期間を要するおそれがある。この点については、近年の傾向をとりまとめた後述のを参照されたい。

⑵ 当局対応[4]

 清算・解散にあたり税務登録の抹消手続を行うことになるが、この手続には通常かなり長い期間がかかる上[5]、適切に処理が行われない場合には行政処分を受けるリスクもあるため、慎重な対応が求められる。当局から過去の納税状況を微細にわたり確認を受け追納を求められる可能性があるほか、現地進出時に地元政府から外資優遇措置を受けている場合や廉価での土地の払い下げを受けている場合には、当初合意していた事業規模の不達成を理由に追加の支払を求められる可能性もある。早期の段階で当局と相談・調整を行い、滞りなく手続を進めていくことが肝要である。

⑶ 取引先対応

 取引先との間で締結している契約については、理論上は契約の規定に従って期間満了や解除による終了が可能であると解されるが、取引先からの反発を受けて取引解消に際して補償金の支払を求められるケースや、取引先から一方的に取引を停止されるケースがある一方、早期に情報開示を行うと、従業員に漏れ伝わるなど不測のリスクもあるため、慎重な対応が求められる。

(3)につづく



[1] 会社法182条は株主による解散請求を定めた条項であり、具体的には、会社の経営管理に著しい困難が生じ、引き続き存続すると株主の利益に重大な損失を被らせるおそれがあり、その他の方法によっても解決できない場合、会社の全株主の議決権の10%以上を保有する株主は、人民法院に会社の解散を請求することができると定めている。「『会社法』適用の若干問題に関する規定(二)」も合わせて参照されたい。

[2] 債務超過のまま会社を解散・清算する方法、すなわち日本会社法における特別清算に相当する手続は中国会社法において法定されていない。

[3] 勤続年数が6ヶ月以上1年未満の場合は1年として計算する。勤続年数が6ヶ月未満の場合は半月分の賃金を支払う。

[4] 税務調査のほか環境調査を求められ、汚染等があった場合は除去した上で撤退することを求められる場合もある。

[5] 会社の規模及び所在地にもよるが、2年から3年程度を要する例もある。

 


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(ろく・はせる)

長島・大野・常松法律事務所東京オフィスパートナー。2006年東京大学法学部卒業。2008年東京大学法科大学院修了。2017年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)。2018年から2019年まで中国大手法律事務所の中倫法律事務所(北京)に駐在。M&A等のコーポレート業務、競争法業務の他、在中日系企業の企業法務全般及び中国企業の対日投資に関する法務サポートを行なっている。

(おざわ・しょうこ)

2014年東京大学法学部卒業。2016年東京大学法科大学院修了。2017年弁護士登録(第一東京弁護士会)、長島・大野・常松法律事務所入所。中国法務プラクティスグループに所属し、企業再編及び一般企業法務を中心に幅広い分野を取り扱っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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