令和5年金融商品取引法等改正にかかる政府令案等の概要
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士 森 下 国 彦
弁護士 津 江 紘 輝
1 はじめに
令和5年11月29日に公布された金融商品取引法等の一部を改正する法律(令和5年法律第79号)(以下、この改正を「令和5年改正」という。)は、金融審議会「市場制度ワーキング・グループ「顧客本位タスクフォース」中間報告」(令和4年12月9日公表)[1]および「市場制度ワーキング・グループ第二次中間整理」(同4年12月21日公表)[2]の提言を踏まえ、多岐にわたる改正を行っている。
出典:「金融商品取引法等の一部を改正する法律案 説明資料」[3] 1頁
令和6年6月27日、令和5年改正に関する政令・内閣府令・監督指針等のうち、公布の日から起算して1年以内に施行するものが公表された。これらは、主に以下の事項に関するものである[4]。
- 顧客等の最善の利益の勘案義務
- 「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」[5]に基づくアナログ規制の見直し
- ソーシャルレンディング等に係る規制の見直し
- セキュリティトークン関連の見直し
- 金融商品販売業者等の掲げる勧誘方針のインターネット上での掲載義務
本稿ではこれらの内容を概観していく。
2 新誠実公正義務
⑴ 新誠実公正義務の及ぶ範囲
令和5年改正では、金融商品取引法(以下、「金商法」という。)上の誠実公正義務(本改正前の金商法(以下、「旧金商法」という。)36条1項)が削除され、金融サービスの提供および利用環境の整備等に関する法律(以下、「金サ法」という。)に移設されたうえ、併せて顧客等の最善の利益を勘案すべき旨規定された(以下、「新誠実公正義務」という。)(以下、改正後の同法を「改正金サ法」という。)[6]。この新誠実公正義務が及ぶ範囲として、改正金サ法は金融商品取引業や銀行業、保険業・保険募集業務、貸金業などを規定している(改正金サ法2条1項)。
改正金サ法の施行令案(以下、「金サ法施行令案」という。)および金融サービスの提供および利用環境の整備等に関する法律施行令第二条の規定に基づき業務を定める内閣府令案はこれらに加えて、これらの業務の付随業務等(同施行令案2条)や、登録金融機関業務および信託業法50条の2第1項の登録を受けて行う信託法3条3号に掲げる方法によってする信託にかかる事務に関する業務(同施行令案2条の2)、排出量取引に関する業務など(同府令案1号・2号・4号)を定めている。
なお、改正金サ法2条1項は「顧客」の範囲についても政令委任を行っているが、金サ法施行令案にその規定は見受けられない。
⑵ 新誠実公正義務違反
各種の監督指針案およびガイドライン案において、顧客の最善の利益も勘案しつつ顧客に対して誠実かつ公正に業務を行っていないと判断された場合には、行政処分の対象となりうることが明記されている(金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針案III-2-3-1(2)等)。
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(もりした・くにひこ)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。1981年東京大学法学部卒業。1986年弁護士登録(第二東京弁護士会)。1993年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程(専修コース)修了。金融法委員会委員(現共同代表)、金融法学会理事。金融商品取引法、投信法、銀行法等の金融規制法に関する相談案件を数多く扱う。
(つえ・ひろき)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2015年東京大学法学部卒業。2017年3月東京大学法科大学院卒業。2019年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2022年7月から2024年3月まで金融庁企画市場局市場課にて勤務し(課長補佐)、令和5年及び令和6年の金融商品取引法等の改正などに携わる。2024年4月に前記法律事務所に帰任。金融規制法、情報法、税務をはじめ、一般企業法務を広く取り扱う。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。
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