◇SH3140◇タイ:タイ版フランチャイズ・ガイドラインの施行(下) 箕輪俊介(2020/05/13)

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タイ:タイ版フランチャイズ・ガイドラインの施行(下)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 箕 輪 俊 介

 

 タイにおける競争法関連の規制強化の一環として、2019年12月6日付で取引競争法のフランチャイズ・ガイドライン(the Notification of the Trade Competition Committee on Guidelines for Consideration of Unfair Trade Practices in Franchise Business(以下、「タイ版フランチャイズ・ガイドライン」という。))が公布され、2020年2月4日付で発効したため、引き続き本項にて紹介する。

 

日本のフランチャイズ・ガイドラインとの比較

 日本版フランチャイズ・ガイドラインとの比較は以下のとおり。なお、競争法関連の規制に焦点を当てているため、中小小売商業振興法や日本フランチャイズチェーン協会「倫理綱領」との比較は以下には記載していない。

  タイ 日本
規制法理 タイ版フランチャイズ・ガイドライン 日本版フランチャイズ・ガイドライン
管轄官庁 取引競争委員会 公正取引委員会
契約締結前の開示事項 以下の事項の事前開示が義務づけられている。

  1. ✓ 事業の運営にあたっての対価及び費用(フランチャイズ料、ロイヤリティ、研修費、マーケティング費、事業運営に必要な設備の調達費、支払い及び返金の詳細を含む経費の計算方法等)
  2. ✓ フランチャイズ事業運営プラン(経営及び事務の支援、研修、指導、近隣エリアの他加盟者の数・場所・将来の予定及び販売促進に関する詳細等)
  3. ✓ ライセンス付与の条件、期間等や特許、著作権等の重要な情報
  4. ✓ フランチャイズ契約の更新や変更、解約に関する条件
中小小売商業振興法上の事前開示義務とは別の観点(独占禁止法違反行為の未然防止の観点)から、ガイドライン上、以下の事項の事前開示が推奨されている。

  1. ✓ 加盟後の商品等の供給条件に関する事項(仕入先の推奨制度等)
  2. ✓ 加盟者に対する事業活動上の指導の内容、方法、回数、費用負担に関する事項
  3. ✓ 加盟に際して徴収する金銭の性質、金額、その返還の有無及び返還の条件
  4. ✓ 加盟後、本部の商標、商号等の使用、経営指導等の対価として加盟者が本部に定期的に支払う金銭(ロイヤルティ)の額、算定方法、徴収の時期、徴収の方法
  5. ✓ 本部と加盟者の間の決済方法の仕組み・条件、本部による加盟者への融資の利率等に関する事項
  6. ✓ 事業活動上の損失に対する補償の有無及びその内容並びに経営不振となった場合の本部による経営支援の有無及びその内容
  7. ✓ 契約の期間並びに契約の更新、解除及び中途解約の条件・手続に関する事項
開示しない場合の効果
  1. ✓ 不公正な取引方法を規定する取引競争法第57条違反を問われる可能性あり
欺瞞的顧客誘引(不公正な取引方法の一般指定第8項)に該当する虞あり
加盟者に対する優先出店権の付与 あり なし(事前に開示しておくべき事項のひとつとして、「加盟後、加盟者の店舗の周辺の地域に、同一又はそれに類似した業種を営む店舗を本部が自ら営業すること又は他の加盟者に営業させることができるか否かに関する契約上の条項の有無及びその内容並びにこのような営業が実施される計画の有無及びその内容」が規定されている)
違反行為 上述のとおり、以下の類型の行為が取引競争法違反を構成しうるものとして挙げられている。

  1. ✓ 不公正な取引条件の強制
  2. ✓ 契約締結後の新たな取引条件の追加
  3. ✓ 製品の仕入先等を強制
  4. ✓ 期限の近い生鮮食品等の商品の値引きの禁止
  5. ✓ 加盟者の差別的取扱い
優越的地位の濫用事例として、以下のものが挙げられている。

  1. ✓ 取引先の制限
  2. ✓ 仕入数量の強制
  3. ✓ 見切り販売の制限
  4. ✓ フランチャイズ契約締結後の契約内容の変更
  5. ✓ 契約終了後の競業禁止
  6. ✓ 販売価格の制限

 これまでタイではフランチャイズに関して、加盟者保護の立場にたったガイドラインも特段設けておらず、適切な規制がなされているとは言い難い状況であったものの、近時の競争法関連の摘発例の増加に鑑みると、このガイドラインの制定を機に、フランチャイズ規制が今後活発化する可能性があることについては留意する必要がある。

以 上

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