◇SH0249◇ベトナム:新・企業法における主な変更点 中川幹久(2015/03/10)

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ベトナム:新・企業法における主な変更点

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 中 川 幹 久

 昨年12月の国会においてビジネス上重要な複数の法律の改正法が成立したことはすでに本年1月6日の澤山啓伍弁護士の記事でご紹介したとおりである。本稿では、このうちの企業法の重要な変更点のうち、澤山弁護士の記事では取り上げなかった点で特に実務に相応の影響を及ぼす可能性があると思われる点をいくつかご紹介したい。

1 決議要件の変更

 現行の企業法では、有限責任会社の社員総会及び株式会社の株主総会における普通決議の決議要件は65%以上、特別決議の決議要件は75%以上の賛成とされている。現行法の下でも、関連する法令等に基づき、一定の要件を満たす場合には例外的にこれらの決議要件の引き下げも認められているが、かかる一定の要件の解釈が必ずしも一義的ではない等の問題もあり、この例外的な決議要件の引き下げを採用することについては抑制的なスタンスをとる投資家も少なくなかったのではないかと思われる。

 新企業法では、株式会社の株主総会における普通決議の決議要件は51%以上、特別決議の決議要件は65%以上の賛成とされ、「具体的な数字は定款で定める」旨規定されていることから、定款でこれらの数字を引き上げることも認められているものと解される。他方、有限責任会社の社員総会における決議要件は、現行の企業法上の数字と同じく、普通決議が65%以上、特別決議が75%以上の賛成とされている。しかしながら、新企業法では、「定款で別異の定めがない限り」との文言が付されている。これを文言どおり解釈すれば、定款でかかるデフォルトルールより低い数字を規定すれば、これらの決議要件を引き下げることも可能であるように思われる。他方で、これまでの法改正を巡る経緯等も考えれば、立法者の意図として、定款でこれらの数字を引き上げることは認めるものの、引き下げることまで認めているのか疑問の余地もあるように思われる。定款の定めで決議要件の引き下げが認められるのか、今後の下位法令の内容等も併せて検討してみる必要があるように思われる。

2 複数の法的代表

 現行の企業法では、有限責任会社・株式会社ともにその法的代表者は1名である。新企業法では、1名又は複数名の法的代表者を置くことができることとされ、具体的な人数、いかなる地位にある者が法的代表者になるのか、法的代表者の権利・義務については定款で定めることとされている。法的代表者に関する氏名を含む所定の情報は、企業登録証に記載されるものの、例えば、代表権の共同行使に関する内部的な制限等が定められていた場合に、これが企業登録証に規定されることになるのか定かではなく(むしろ条文の内容からすると企業登録証には規定されない可能性が十分に考えられる)、今後、こうした社内的な権限の制限等と、これを知らずに取引を行った相手方の保護のバランスをどのように図っていくのかが問題となってくるように思われる。ベトナム企業と取引を行うにあっては、例えば、契約書等に署名する者の権限の有無・範囲につき、今後はより慎重に確認・検討を行うことが求められよう。

3 企業統治の柔軟化

 現行の企業法では、株式会社の必要的な機関として株主総会・取締役会・ジェネラルダイレクターが規定され、個人株主が11名超いる場合、又は法人株主が総株式の50%超を保有している場合は、さらに監査委員会の設置が必要とされている。新企業法では、規定の仕方が多少変更され、株式会社においては、株主総会・取締役会・ジェネラルダイレクター及び監査委員会が必要的な機関として規定され、①株主が11名未満かつ法人株主が総株式の50%未満しか保有していない場合は、監査委員会の設置は任意と規定されている。また、①を満たさない場合であっても、取締役の20%以上が社外取締役(Independent Member)であり、かつ、取締役会の下に内部監査委員会が設置されている場合には、監査委員会は設置する必要がない。社外取締役(Independent Member)として認められるために満たすべき要件や、内部監査委員会の詳細については新企業法に具体的な定めは見当たらず、今後、下位法令等により明確にされることが期待される。

以上

 

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