◇SH3386◇ベトナム:知的財産権侵害への対策(1) 鷹野 亨(2020/11/17)

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ベトナム:知的財産権侵害への対策(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 鷹 野   亨

 

1. はじめに

 ベトナムでは日系製品の模倣品・海賊版が増加傾向にあるが、エンフォースメント制度(執行)が未成熟であることや権利者のリソースの問題もあり、その流通を有効に阻止できていない状況にある。以下では、ベトナムにおける知的財産権侵害への対策について、2020年の現況を含めて、3回に分けて説明したい。

 なお、ベトナムの模倣品流通の実態については、当事務所ホーチミン・オフィスが執筆に協力した、日本貿易振興機構(JETRO)ホーチミン事務所「ベトナムにおける模倣品流通実態調査」(2020年3月)が公表されているので、参照されたい[1]

 

2. 知的財産法制度

 ベトナムの知的財産法制度自体は日本と共通する点が多く、TRIPS協定やベルヌ条約、ハーグ条約、TTPなど知的財産に関する主要な条約に加盟している。もっとも、知的財産権のエンフォースメントの場面では、行政措置が認められている等、日本とは異なる法制度も多いので留意が必要である。ベトナムでは、2005年に制定された知的財産法(2009年に改正)という1つの法律で、特許権、意匠権、商標権、商号、営業秘密、地理的表示、著作権、植物品種の権利等の知的財産権をカバーしている。なお、ベトナムにおいて知的財産権のエンフォースメントを行う場合の多くは商標権・著作権の侵害の場面であるので、以下では、商標権・著作権を侵害された場合を想定して説明する。

 

3. 権利の登録

 知的財産権のエンフォースメントを行うには、大前提として同権利をベトナムで行使できるようにする必要がある。

 商標については、ベトナム国家知的財産庁(NOIP:National Offices of Intellectual Property)への登録が必要となる。その有効期間は10年であるが、更新は10年を単位として回数の制限なく可能である(知的財産法93条)。

 著作権については、当局へ登録することなく、創作により当然に権利として保護の対象となるが、著作権事務所(Copyright Office)を通して国家著作権・著作隣接権登録簿(National Register of Copyright and Associated Rights)へ登録することができ、その場合、著作権及び著作隣接権を有することについての有効な証明となる証書が発行される。著作権のエンフォースメントの場面では、権利者である証拠として同登録簿の提出を求められることが多く、エンフォースメントが想定される場合にかかる登録を事前にしておくことが望ましい。

 著作権の保護期間は、著作者人格権のうち公表権及び著作権(財産権)については、映画の著作物、写真の著作物、応用美術の著作物及び匿名の著作物は最初の公表後75年(それらが固定されてから25年以内に公表されなかったときは固定から100年)、著作者の死後に公表された著作物は公表後50年、その他の著作物は著作者の死後50年である。公表権を除く著作者人格権(命名権、氏名表示権、同一性保持権)については、無期限に有効である(知的財産法27条)。

 

4. 知的財産権のエンフォースメント

 知的財産権が侵害された場合に取り得る対策として、①任意による解決、②行政措置、③刑事措置、④民事訴訟、⑤水際措置、⑥インターネット上の侵害対策の手段が考えられる。以下それぞれについて詳述する。

 

(1)任意による解決

 侵害者に警告状を送付して任意の権利侵害停止(模倣品の販売中止、ウェブサイトでのロゴマーク無断使用等)を求める方法は、知的財産権のエンフォースメントのうち簡便迅速な手段として、ベトナムでも一般的に用いられている。もっとも、警告状を送付すれば相手方も警戒態勢に入るため、証拠隠滅や何ら返信ないまま逃亡してしまう恐れがあることには留意が必要である。したがって、行政措置や民事訴訟も検討している場合は、警告状送付前に、模倣品のテスト購入など証拠収集を事前に行っておくことが望ましい。

 また、警告状を送付する場合、権利侵害行為の停止に加えて、損害賠償請求を求めても侵害者がその支払いに応じることはあまりない。侵害者とのやり取りの中で、入手経路の情報を収集できる場合はあり、その結果製造業者を突き止めて摘発に成功したというケースもある。

次稿に続く)

 

 


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(たかの・とおる)

2009年東京大学法学部卒業、2011年慶應義塾大学法科大学院修了、2012年日本国弁護士登録(第一東京弁護士会)、2013年より東京都内企業法務系法律事務所で勤務の後、2015年~2017年経済産業省製造産業局模倣品対策室勤務を経て、現在は長島・大野・常松法律事務所ホーチミンオフィスに勤務し、主に、ベトナムへの事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。

 

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