SH3952 タイ:中小企業による転換社債の発行の解禁(1)――スタートアップによる資金調達手段の多様化 佐々木将平(2022/03/24)

組織法務経営・コーポレートガバナンス

タイ:中小企業による転換社債の発行の解禁
――スタートアップによる資金調達手段の多様化(1)――

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 佐々木 将 平

 

 タイの民商法(Civil and Commercial Code)上、非公開会社(private limited company)には、社債や新株予約権の発行は認められておらず、非公開会社による資金調達手段は、原則として、新株発行又は借入に限られている。しかし、2020年3月12日付(同3月30日付施行)のタイ証券取引委員会(以下、「SEC」という)の規則(以下、「本規則」という)[1]に基づき、コロナ禍の影響を踏まえた中小企業向け支援策として、一定の要件を充たす中小企業に限って、転換社債の発行が認められることとなった。

 

1 発行会社の要件

 本規則に基づき転換社債を発行することが認められる非公開会社は、中小企業促進法(Small and Medium Enterprises Promotion Act B.E. 2562(2019))に基づく省令において定義される「中小企業」に限定されており、転換社債の発行に際して、中小企業促進事務局(Office of Small and Medium Enterprises Promotion)に対して登録を行う必要がある。同省令上、中小企業(小企業及び中企業)は、以下の通り定義されている(なお、同省令上、従業員数に基づく区分と年間収入に基づく区分に齟齬が生じる場合には、年間収入に基づく区分が用いられるとされている)。

 

  製造業の場合 サービス業又は卸売小売業の場合

小企業

従業員50名以下、又は、年間収入が1億バーツ以下

従業員30名以下、又は、年間収入が50百万バーツ以下

中企業

従業員50名超200名以下、又は、年間収入が1億バーツ超5億バーツ以下

従業員30名超100名以下、又は、年間収入が50百万バーツ超3億バーツ以下

 

2 投資家及び発行金額に関する制限

 本規則に基づき、中小企業(小企業及び中企業)は、以下の者に対して転換社債を発行することが認められており、この場合、発行金額及び投資家の人数に関する制限は特に設けられていない。

  1. ・ 機関投資家(商業銀行等)、プライベートエクイティファンド、ベンチャーキャピタル及びエンジェル投資家
  2. ・ 発行会社及びその子会社の取締役又は従業員(取締役又は従業員への割当のために設立された特別目的会社を含む)

 さらに、中企業の場合には、上記以外の者に対しても、転換社債を発行することが認められている。但し、この場合には、発行額は原則として20百万バーツ以下に限定されており、また、投資家の人数は10名以下とされている。

 

投資家の種別 発行額 投資家数
  1. ① 機関投資家、プライベートエクイティファンド、ベンチャーキャピタル及びエンジェル投資家

制限なし

制限なし

  1. ② 発行会社及びその子会社の取締役又は従業員(取締役又は従業員への割当のために設立された特別目的会社を含む)

制限なし

制限なし

  1. ③ 上記以外の者(発行会社が中企業の場合のみ)

合計20百万バーツ以下

10名以下

 

(2)につづく



[1] Notification of Capital Market Supervisory Board No. Tor Jor. 17/2563。証券取引法37条において、証券取引法に基づき社債の発行が認められる場合には、非公開会社の社債の発行を禁ずる民商法1229条の適用が除外されることとされている。

 


この他のアジア法務情報はこちらから

 

(ささき・しょうへい)

長島・大野・常松法律事務所バンコクオフィス代表。2005年東京大学法学部卒業。2011年 University of Southern California Gould School of Law 卒業(LL.M.)。2011年9月からの約2年半にわたるサイアムプレミアインターナショナル法律事務所(バンコク)への出向経験を生かし、日本企業のタイ進出及びM&Aのサポートのほか、在タイ日系企業の企業法務全般にわたる支援を行っている。タイの周辺国における投資案件に関する助言も手掛けている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

 

タイトルとURLをコピーしました