ベトナム:知的財産権侵害への対策(3)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 鷹 野 亨
本稿では、前稿に続き、ベトナムにおける知的財産権侵害への対策について、2020年の現況を含めて、説明したい。
5. 最近の注目すべき動向
2020年に入ってからも、政府主導で様々な模倣品対策が打ち出されているところである。以下では、その一例をご紹介する。
(1)Task Force 368
Task Force 368とは、2020年2月28日付市場管理総局決定368/QĐ-TCQLTT号により設立されたワーキンググループである。ECサイトやSNS等のインターネット上で模倣品、知的財産侵害品、原産地不明品等の禁制品・粗悪品が流通している問題の深刻化により、消費者に悪影響を与えているため、これを取り締まることを目的として組成された。同組織は、ハノイ市、ホーチミン市等の市場管理局の上級職員で構成される。
Task Force 368は、関係当局と協力のうえ、インターネット上の模倣品等への対応を行うとしており、今後の動向が注視される。実際にも、2020年3月に、Task Force 368とホーチミン市市場管理局との協力調査が行われ、通販サイトで模倣品の化粧品や原産地を証明できない化粧品等の販売を行っていた店舗が営業停止等の処分を受けている。
(2)罰則の強化
模倣品・禁制品等の製造・販売に対する行政処分及び消費者の権利保護に関する政令98/2020/NĐ-CP号(以下「政令98号」という)が、2020年8月26日に成立し、同年10月15日に施行された。同政令は、模倣品・禁制品等の取引を禁止する行政罰について広く定めており、消費者の権利を保護することを目的として制定された政令である。
例えば、模倣品・知的財産権侵害品等について、インターネット上で販売する行為等に対して、1000万~2000万ベトナムドンの罰金が科されるとの規定が定められている(政令98号63条3項b号)。これにより、インターネット上の模倣品等の流通への厳罰化が期待される。
また、「密輸品」を、①法令の定めにより輸入が禁止されている商品、②法令の定める指定の検問所を通過していない、若しくは通関手続きを実施していない商品又は通関手続実施の際に数量若しくは種類を偽装した商品、③インボイス等法令の定める書類がない又はこれらの書類があるが、適法なものではないにも関わらず、市場に流通している商品と定義した上で、これらを販売する行為について、原則として50万~5000万ドンの罰金が科されることとなった(政令98号3条6項、15条)。模倣品は、ハンドキャリーなど適法な通関を経ない密輸品として輸入されることが多いため、このような罰則が新設されることで、実際の取り締まりが強化されていくのか注目されるところである。
6. 終わりに
ベトナムにおける知的財産権のエンフォースメントとして考えられる対策について、以上の通りご紹介した。模倣品の流通が進めば、粗悪な模倣品の流通によりブランド価値が毀損されることで権利者のレピュテーションリスクになると共に、市場シェアを奪われることにもなりかねない。各対策の特性や効果も考慮した上で、早期の対応をしていくことが望ましいといえる。
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(たかの・とおる)
2009年東京大学法学部卒業、2011年慶應義塾大学法科大学院修了、2012年日本国弁護士登録(第一東京弁護士会)、2013年より東京都内企業法務系法律事務所で勤務の後、2015年~2017年経済産業省製造産業局模倣品対策室勤務を経て、現在は長島・大野・常松法律事務所ホーチミンオフィスに勤務し、主に、ベトナムへの事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。
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