タイ:ヘルスケア分野におけるBOIの投資恩典の拡充
(臨床研究)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 箕 輪 俊 介
ヘルスケア分野はタイが近年特に力を入れて育成を図っている産業のひとつであるが、かかる分野への更なる投資の充実を図るためにタイ政府はタイ投資委員会(BOI)を通じて、この分野への投資へ新たな投資恩典を設けることを決定した。本稿では、臨床研究分野に対して設定された新たな投資恩典について紹介する。
臨床研究
タイにおけるヘルスケア分野の競争力を高め医療ハブとしての地位を強化する目的で、BOIは臨床研究を促進するための委託研究機関(Contract Research Organization: CRO)と臨床研究センター(Clinical Research Center: CRC)の運営という臨床研究に携わる事業に対し、投資恩典を付与することを決定した。具体的な内容は以下のとおりである。
恩典の内容
通常の投資恩典に加えて、以下の恩典を受けることが可能である。
- ・ 法人所得税の8年間の免除(CRO及びCRC共通・免除の上限額なし)
なお、通常の投資恩典は以下のとおりである。
- ・ 機械輸入関税の免除(本恩典であれば、研究開発用機器及び試験機器の輸入関税を免除)
- ・ 研究開発用の物品の輸入関税の免除
- ・ 外国人事業法上の外資規制の緩和(CRCやCROは外資規制の対象となる事業であるため、原則として外国人は同事業に従事できないが、本恩典を取得することにより外国人(100%外国資本)にて従事することが可能になる)
- ・ 土地取得許可(注:タイの土地法上、外国人は土地を保有できないが、かかる投資恩典を取得した場合、外国人であっても例外的にプロジェクト用地(本恩典であれば臨床研究機関用地)を保有することが可能となる)
- ・ 外国人ビザ及び就労許可手続の簡素化
恩典取得のための条件
恩典取得にあたって必要とされる条件はCRO及びCRCそれぞれ下記のとおりである。
(1)CRO及びCRC共通で求められる条件
- (a) (x)臨床研究に従事するタイ人(臨床研究アソシエイト)の給与が年間最低150万バーツ以上であり、かつ、当該従業員が同プロジェクトにて新規に採用された者であること、又は、(y)本プロジェクトの投資金額(土地代及び運転資金を除く)が100万バーツ以上であること
- (b) 医薬品規制に関する国際会議(International Conference on Harmonization: ICH)にて定められる、臨床試験の基準(Good Clinical Practice: GCP)等を満たす教育訓練を受けたタイ国籍の人員を有し、当該者が臨床研究に従事すること
- (c) BOIの指定するタイ国内の研究機関、公衆衛生機関、又は教育機関との連携を有すること
- (d) 法人所得税の免除対象となる法人所得が、BOIが承認した枠組みを遵守した臨床研究に由来するものに限定されること
(2)CROを申請する場合に限り求められる条件
- (a) 所定の行程・枠組みを含む形で、臨床研究が構成されること
- (b) 人員雇用計画が詳細なものであること
(3)CRCを申請する場合に限り求められる条件
- (a) 副作用の確認や人間を対象とする形態での研究等を、少なくとも1フェーズ行うこと
- (b) 研究者の情報、臨床研究センターの基本設備、ボランティアの保護と支援の仕組みなど関連する詳細情報を提示すること
- (c) 診察室、臨床研究で使用される薬剤や医療機器の保管室等、臨床研究業務を実施するにあたって必要な施設及び設備を有すること
- (d) BOIの承認に従って、本プロジェクトにおいて、既存の医療機器又は資材を使用すること
- (e) 臨床試験が優良とみなされる基準(上述のGood Clinical Practice: GCP)等に従って臨床研究が実施されること
- (f) 法人所得税免除恩典の行使を申請する前に、倫理委員会(Ethics Committee: EC)又は動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee: IACUC)による許可を必要に応じて取得すること
なお、上記の投資恩典は2020年11月より新たに追加されているが、2021年2月18日よりかかる投資恩典の申請を行うにあたり、オンラインでの申請を行うことも可能になった。
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(みのわ・しゅんすけ)
2005年東京大学法学部卒業、2007年一橋大学大学院法学研究科(法科大学院・司法試験合格により)退学。2014 年Duke University School of Law 卒業(LL.M.)、2014 年Ashurst LLP(ロンドン)勤務を経て、2014 年より長島・大野・常松法律事務所バンコク・オフィス勤務。
バンコク赴任前は、中国を中心としたアジア諸国への日本企業の進出支援、並びに、金融法務、銀行法務及び不動産取引を中心に国内外の企業法務全般に従事。現在は、タイ及びその周辺国への日本企業の進出、並びに、在タイ日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。
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