SH3953 タイ:中小企業による転換社債の発行の解禁(2)――スタートアップによる資金調達手段の多様化 佐々木将平(2022/03/25)

組織法務経営・コーポレートガバナンス

タイ:中小企業による転換社債の発行の解禁
――スタートアップによる資金調達手段の多様化(2)――

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 佐々木 将 平

 

(承前)

3 転換社債の発行手続

 本規則上、発行会社は、転換社債の発行に関して、以下の規制に服する。

  1. ・ 投資家向けの重要情報(事業種別、主要株主のリスト、財務情報及び証券の詳細)の提供のため、SECが定めた書式による申請書(SME Factsheet)を作成すること
  2. ・ 勧誘は特定の投資家のみを対象として行うこと(公衆に対する勧誘は行わないこと)
  3. ・ 転換社債の販売又は転換について、販売日又は転換日から15日以内にSECに対して報告を行うこと
  4. ・ 転換社債の発行時に、譲渡制限(前述の発行額及び投資家数に関する制限に抵触することとなるような譲渡については、発行会社において登録を受け付けない旨の制限)をSECに登録すること
     

 また、転換社債の発行及び株式への転換については、SECとの関係で必要となる上記の手続に加えて、民商法及び社内規則上必要となる社内手続を経る必要がある。もっとも、民商法の非公開会社に関する規定においては、転換社債の発行や株式への転換に関する定めは特段設けられておらず、商務省事業開発局における登記手続を含め、どのタイミングでどのような手続が具体的に必要となるかは、法文上明確ではない。そのため、実際に転換社債の発行や転換を行う場合には、当局や専門家に相談の上、具体的な手続を確認しつつ進める必要があると思われる。

 一般に、転換社債は、スタートアップの(特に)アーリーステージにおいて、バリュエーションの実施を将来の株式発行時に先延ばしできるメリットのある資金調達手段と評価されている。従前、スタートアップの資金調達手段は新株発行や借入に限定されていたが、本規則により転換社債の発行が解禁されたことにより、スタートアップの資金調達手段が多様化し、タイにおけるスタートアップ投資のさらなる活発化に繋がることが期待される。

以 上


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(ささき・しょうへい)

長島・大野・常松法律事務所バンコクオフィス代表。2005年東京大学法学部卒業。2011年 University of Southern California Gould School of Law 卒業(LL.M.)。2011年9月からの約2年半にわたるサイアムプレミアインターナショナル法律事務所(バンコク)への出向経験を生かし、日本企業のタイ進出及びM&Aのサポートのほか、在タイ日系企業の企業法務全般にわたる支援を行っている。タイの周辺国における投資案件に関する助言も手掛けている。

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