ベトナム:新労働法による変更点⑪
セクシャルハラスメント(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 井 上 皓 子
新労働法(45/2019/QH14、以下「新法」)が2021年1月1日に施行されました。本稿では、引き続き新法による変更点を解説していきます。前回、新法では就業規則に関する変更点を解説しましたが、その最後でも言及したセクシャルハラスメントについて解説します。なお、弊職らが作成した新法の日本語仮訳が、日本貿易振興機構(ジェトロ)のウェブサイトで公開されていますので、ご参照下さい(※中段「労務」の項に、日本語訳のみの版と日越併記版があります)。
「職場におけるセクシャルハラスメント」(セクハラ)は、旧法においても労働分野における厳禁行為とされ、セクハラを受けた労働者は、一方的に労働契約を解除することができることとされていましたが、新法においては、引き続き厳禁行為とされていること(新法第8条)、労働者による一方的解除事由とされていることに加え、新たにセクハラの予防策及び対応策を策定し、実施することが使用者に義務付けられ(同法第6条第2項d)、さらにセクハラを行ったことが懲戒解雇事由としても追加されました(第125条)。そのため、セクハラに関する規定は、新法にあわせて就業規則を改訂するにあたり、重要なポイントの一つと考えられます。
他方で、新法では、セクハラについて「職場において、ある者の他の者に対する、本人の意に反する又は同意のない、性的な性質を有する言動」と定義されているものの(第3条9号)、就業規則にどのような内容を記載すればいいのかまでは不明確でしたが、2020年12月14日に公布された新労働法の詳細について定めている政令第145/2020/NÐ-CP号で、定めるべき内容が概ね明らかになりました。
1 セクハラの定義
同政令第84条にはセクハラの定義が補足されており、これによると、「仕事に関する利益を得るために性的関係を提案、要求、示唆、脅迫、強制する等の取引の形式で、又はその仕事に関する利益との取引を意図したものではなくても、職場環境を不快で不安にさせ、被害者の身体・精神・労働効率・生活に損害を与える性的性質を有する行為」とされ、仕事に関する利益との取引関連性の有無にかかわらず、性的接触等の身体的行為、直接的な発言や電話その他による発言を含む言語的行為、ボディーランゲージや性的画像を見せるなどの非言語的行為のいずれをも含むこととされています。
また、ベトナム労働法においては「職場」におけるセクハラが規制対象とされているところ、ここでいう「職場」とは、合意又は使用者の指示に基づき、労働者が実際に労働に従事する場所(新法第3条9号)にとどまらず、社会活動、セミナー、研修、正式な出張、食事、電話での会話、電子通信のコミュニケーション、住居から職場への乗物などの仕事関連の空間又は場所、及び会社によって提供される住居、指定されるその他の場所を含むものと明確化されました。
(2)へつづく
この他のアジア法務情報はこちらから
(いのうえ・あきこ)
2008年東京大学法学部卒業。2010年東京大学法科大学院修了。2011年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2018年より、長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス勤務。
日本企業によるベトナムへの事業進出、人事労務等、現地における企業活動に関する法務サポートを行っている。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。
当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。
詳しくは、こちらをご覧ください。