ベトナム:新労働法による変更点⑩
就業規則
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
新労働法(45/2019/QH14、以下「新法」)が2021年1月1日に施行されました。新法による現行法からの主要な変更点や、企業が労務管理上、気をつけるべきポイントの第10回として、今回は、就業規則に関する変更点を解説します。新法の施行に伴い、多くの使用者にとって就業規則の変更、再登録が必要になるため、今回の内容は重要です。なお、弊職らが作成した新法の日本語仮訳が、JETROのウェブサイト[1]で公開されていますので、ご参照下さい。
1 変更内容の概要
論点 | 旧法 | 新法 |
就業規則の公布義務 | 10人以上の労働者を使用する使用者は、文書による就業規則を所持しなければならない。 (119条1項) |
使用者は、就業規則を公布しなければならず、10人以上の労働者を使用する場合、就業規則は書面によらなければならない。(118条1項) |
就業規則の必要的記載事項 |
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就業規則の登録 | 使用者は、就業規則を労働に関する省レベル国家管理機関に登録しなければならない。 (120条1項) |
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就業規則の効力 | 就業規則は、労働に関する省レベル国家管理機関が、就業規則登録書類を受理した日から15日後に有効となる。ただし、第 120条第3項の規定(就業規則に問題がある場合の是正に関する規定)に該当する場合を除く。 (122条) |
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2 就業規則の公布義務及び登録
前回ご紹介したとおり、新法では労働者10人未満の使用者を含め、全ての使用者に就業規則を公布する義務が課されています(新法第118条1条)。10人未満の労働者を使用する使用者については、書面による就業規則の作成及び就業規則の登録は必要とされていませんが、就業規則は旧法と同様労働者に通知され、その主要な内容は職場の必要な場所に掲示されなければならないとされています(新法第118条4項)ので、結局書面で作成せざるを得ないように思えます。
10人以上の労働者を使用する使用者については、これまで同様、就業規則の登録が必要となります。新法第119条4項では複数の地方に支店、事業場、生産経営拠点を有する使用者については、本店所在地で登録した就業規則を他の地方の当局に送付することになっていますが、これは、これまで政令第05/2015/NĐ-CP号第28条8項で規定されていた内容と同様です。
なお、就業規則の制定、変更には基礎レベル労働者代表組織への意見聴取が必要であり、これまでは登録にあたって組合(社内労働組合がない場合には上部労働組合)の同意書や協議の議事録が必要とされていました。しかし、前回ご説明したように、新法では、社内の労働組合がない場合に上部組合が「基礎レベル労働者代表組織」にあたるという規定がなくなっているため、社内に労働者代表組織がない場合には、組合の同意書や議事録を取得する必要はないものと考えられます。
3 就業規則の内容
新法の下では、就業規則は旧法で定める内容に加えて、以下の3点についての記載が必要的記載事項に加えられています。
- ① 職場におけるセクシャルハラスメントの予防・対応、職場におけるセクシャルハラスメント行為の処分の手順、手続き
- ② 労働契約と異なる業務に一時的に労働者を異動する場合
- ③ 労働規律処分の権限を有する者
これらを含む就業規則で定めるべき事項の具体的内容については、政令第145/2020/NĐ-CP号(2021年2月15日施行、以下「政令第145号」という。)第69条に規定されています。
上記のうち①のセクハラについての規定は、新法施行に合わせて就業規則を改訂しようとする際に、どのような内容を記載すればいいのか悩ましいところでしたが、2020年12月にようやく公布された政令第145号の第84条で、定めるべき内容が明らかになりました。これについては新法におけるセクハラに関する他の規定とまとめて、次回解説したいと思います。
②については、新法でも旧法でも、使用者が生産上又は経営上の必要がある場合に労働契約に規定された業務とは異なる業務に一時的に労働者を異動させることができることになっていますが、新法第29条第1項では、使用者がどのような状況の時にこの権利を行使できるかを具体的に規定すべきことが求めていることに対応しているものです。
また、③については、通常使用者の代表者が労働規律処分権限を有していますが、政令第145号第69条では、新法第18条第3項に定める使用者側の労働契約を締結する権限を有する者又は就業規則で指定する者を記載することになっており、就業規則に記載することによりこの権限を他の者に与えることができることになっているように見受けられます。
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(さわやま・けいご)
2004年 東京大学法学部卒業。 2005年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2011年 Harvard Law School卒業(LL.M.)。 2011年~2014年3月 アレンズ法律事務所ハノイオフィスに出向。 2014年5月~2015年3月 長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務 2015年4月~ 長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス代表。
現在はベトナム・ハノイを拠点とし、ベトナム・フィリピンを中心とする東南アジア各国への日系企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。
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