◇SH3780◇インド:上場規則の改正(2) 山本匡(2021/10/07)

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インド:上場規則の改正(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 山 本   匡

 

(承前)
 

(2)独立取締役の資格

 プロモーター・グループに属する会社の主要経営責任者(CEO、マネジング・ダイレクター又はマネジャー、会社秘書役、常勤取締役、CFO、常勤の取締役の1段階下のレベルのその他の役員で、取締役会が主要経営責任者として指定する者、インド会社法下の規則で定めるその他の者)や従業員、その親族がこれらの地位にある(あった)者を独立取締役に選任するために、原則として、3年間のクーリング・オフ期間を設ける(逆にいえばクーリング・オフ期間を経過すればこれらの者を独立取締役として選任することが可能である。)。クーリング・オフ期間が適用される者の範囲を、上場会社、親会社、子会社又は関連会社の主要経営責任者又は従業員、その親族がこれらの地位にある(あった)者から拡大するとともに、独立取締役に就任する者の属性によって2~3年のクーリング・オフ期間が設けられているのを3年に統一するものである。

 

(3)独立取締役の辞任

  1. ① 辞任する独立取締役につき、辞任届並びに取締役を務める他の上場会社のリスト(取締役の種類及び委員会)を開示する。取締役を務める他の上場会社のリストを開示しなければならない理由はConsultation Paperやパブリック・コメントへの回答から必ずしも明確ではないが、透明性を高めるという趣旨ではないかと思われる。
  2. ② 辞任した独立取締役が、同じ会社、親会社、子会社もしくは関連会社又はプロモーター・グループに属する会社の執行取締役又は常勤取締役に就任するには、1年間のクーリング・オフ期間を設ける。
  3.  

(4)監査委員会

  1. ① 監査委員会の構成員につき、独立取締役を現在の3分の2から3分の2以上とする。Consultation Paperの段階では、3分の2を独立取締役とし、3分の1を非執行取締役とすることが提案されていたが、パブリック・コメントの結果、反対意見が多く、3分の2以上を独立取締役とすることになったようである。ただし、監査委員会の構成員の員数が3の倍数でなければならないという要件はないので、現在の3分の2が独立取締役でなければならないという要件は実質的には3分の2以上という趣旨であるはずで、この改正は実務に影響を与えるような実質的な改正ではないと思われる。
  2. ② 全関係当事者間取引を、監査委員会の独立取締役のみで承認することを要する。現在、関係当事者間取引は監査委員会の承認が必要ではあるが、独立取締役のみでの承認という要請はない。

 

3. まとめ

 インドでは、上場会社であってもプロモーター(典型的には創業家)が多数の株式を保有し、少数株主の犠牲の下でプロモーターが利益を得ているという懸念が従来から指摘されていた。独立取締役は、少数株主の利益保護の観点からその役割や権限強化が図られてきており、今回の改正もその流れに沿ったものといえよう。少数株主の利益保護は必要ではあるが、特に全関係当事者間取引につき監査委員会の独立取締役のみの承認を求める改正等、上場会社にとってはコンプライアンスの負担が大きくなることは否定できない。

 


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(やまもと・ただし)

2003年弁護士登録。2009年から2017年にかけて、インド・シンガポールで勤務。2015年からヤンゴンにて随時執務。新興国を中心に海外進出、各種リーガル・サポートに携わっている。

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