SH3085 ベトナム:新労働法による変更点③ 試用契約 井上皓子(2020/04/02)

そのほか労働法

ベトナム:新労働法による変更点③
試用契約

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 井 上 皓 子

 

 引き続き、新労働法の下での現行法からの変更点についてご紹介します。第3回目の今回は、試用に関する変更点を取り上げます。

 

1 変更内容の概要

論点 現行法 新法

試用の合意

-試用契約を締結できる

-季節的な業務の労働契約は対象外
(第26条)

-試用契約又は労働契約

1か月未満の期間の労働契約は対象外
(第24条)

試用期間

60日以下、30日以下、6日以下
(第27条)

180日以下、60日以下、30日以下、6日以下
(第25条)

試用期間の終了

-使用期間終了時に試用が要求を満たしていた場合の労働契約の締結義務
(第29条1項)

-試用期間中の試用に対する要請が満たされない場合は、両当事者とも事前通知及び損害賠償なく試用の合意を取り消すことができる
(第29条2項)

-試用期間終了時に、使用者は労働者に対し試用結果を通知する義務

試用が要求を満たしていた場合、労働契約の継続履行又は試用契約の場合は新規労働契約の締結義務

試用が要求を満たさなかった場合、労働契約又は試用契約は当然に終了
(第27条1項)

-試用期間中は、両当事者とも事前通知及び損害賠償なく試用を解約できる
(第27条2項)

 

2 試用の合意

 現行法では、使用者と労働者は、試用について合意することができ、その場合は「試用契約を締結できる」とされています。試用を行う場合は試用契約を締結することを念頭に置いているように思われますが、実務では、試用契約による場合の他、労働契約において試用期間について規定することも見られていました。新法制定の過程では、試用の合意につき、試用契約締結を求めるか、労働契約において規定するかの二つの選択肢が提示されていましたが、最終的に公布された新法では、いずれかに限定することなく、試用契約又は労働契約のいずれかを当事者が選択できることが明確になりました。従来の実務を維持しつつ、法文上明確になった形です。

 また、現行法では、季節的な業務の労働契約の労働者について試用の対象外としていました。本連載の第1回で解説したとおり、新法では季節的業務などのための12か月未満の臨時労働というカテゴリーが廃止されたため、この除外規定については、新たに「1か月未満の有期労働契約」を除外することと規定されました。実質的な意味で大きく変わるものではないと考えられますが、1か月以上の有期労働契約であれば季節的な業務であるかどうかにかかわらず試用の合意ができることが明確になったのは、使用者にとっては好ましいことと考えられます。

 

3 試用期間

 試用期間については、現行法では、①60日以下(短期大学以上の専門技術を要する業務)②30日以下(職業訓練学校、専門学校の程度を要する業務)③6日以下(その他の業務)の3種類が規定されています。新法では、これらは維持された一方で、企業法等に定める企業の管理者という新たなカテゴリーが設けられ、この管理者については、180日までの試用期間が認められることになりました。現地法人の社長等に現地採用した労働者を充てるような場合に活用できることになります。

 なお、新法制定の過程では、上記①の短期大卒程度以上の職について、試用期間を現行法より延長した90日まで認める案が提案されていましたが、これは採用されませんでした。

 

4 試用期間の終了

 現行法では、試用期間が満了した場合、試用の要求を満たした場合は新たな労働契約を締結すると規定されていますが、満たさなかった場合の処理については明確な規定がありません。また、その前提となる、試用の結果について使用者がどう判断したかを通知する義務については法令上規定がなく、現行法の施行細則である政令第05/2015/ND-CP号に規定されています。新法は、法令において試用結果の通知義務が明確にされました。他方で、上記政令に規定される試用結果の通知期限については規定されておらず、これについては今後公布される施行細則によることになると考えられます。

 試用期間満了時に通知された試用の結果を受けて、それが満足いくものであった場合、現行法は(試用契約であることを前提に)労働契約を締結すると定めていますが、新法は、2つの形態があることを踏まえ、試用契約の場合は新規の労働契約の締結、労働契約の場合は締結済み契約の継続履行と明確にしました。

 他方、試用の要求を満たしていない場合について、現行法では必ずしも明確ではありません(試用契約であることを前提に、それが期間満了で終了し、労働契約が締結されないことになるものと考えられます)が、新法では、労働契約又は試用契約は(当然に)終了すると規定されました。これにより、使用者としては取消の意思表示を必ずしも明確にしなくとも、試用結果通知により当然に試用契約を終了させることができることとなりました。

 また、試用期間中の試用合意の終了について、現行法では、試用の要求を満たさない場合に限り、両当事者とも試用合意を取り消すことができるとしていましたが、新法では、両当事者は、試用期間中であれば理由を問わず試用合意を有する労働契約又は試用契約を取り消すことができることになりました。この取消については、事前通知及び損害賠償が不要である点は現行法も新法も変更がありません。

 

5 まとめ

 試用については全体として実務上特に留意が必要となる変更点があるわけではありませんが、上記で見たように細かな点ではいくつか修正が加えられました。使用者にとっては、試用は、字義どおり「試用」としてより柔軟に利用できるようになるように思われます。

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