タイ:取引競争法に基づく最近の摘発事例①
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 佐々木 将 平
タイの競争法(Trade Competition Act)は、長年その執行が活発でない状況が続いていたが、2017年に行われた全面的な法改正やそれに伴う当局の組織改編を経て、摘発例が徐々に出始めている。以下では、2回に分けて、最近の摘発例を紹介する。
エナジー飲料会社による違反事例(市場支配力の濫用等)
タイにおける競争法の規制当局である取引競争委員会は、本年8月5日、エナジー飲料大手のタイ企業及びその取締役に対して、それぞれ600万バーツ(約2,100万円)の罰金を課したことを公表した。
本件は、同企業の代理店が2012年(すなわち、2017年の法改正前)に告発を行っていたもので、同企業が代理店に対して他ブランドのエナジー飲料を販売しないことを要求し、かかる約束がなされない限り商品を供給しないと脅していたとの訴えがなされていた。取引競争委員会は、同企業が「市場支配力」を有する事業者に該当することを認定した上で、代理店に対して他ブランドの商品の販売について制限を加えたことは不公平な取引条件に該当するとして、旧取引競争法25条(現行法50条に相当)及び29条(同57条)に違反する旨の決定を行った。
「市場支配力」を有する事業者は、前年の市場シェアが50%以上かつ売上高が10億バーツ以上の事業者(又は合計市場シェアが75%以上となる上位三事業者。但し、市場シェアが10%以上かつ売上高が10億バーツ以上の者)と定義されており、これに該当する事業者に対しては、その他の事業者よりも厳格な行為規制に服する。同企業は、タイ国内のエナジー飲料市場で50%以上のシェア及び10億バーツ以上の売上高を有しているため、「市場支配力」を有すると認定された。また、かかる「市場支配力」を有する事業者に課せられる規制に加え、不公正な取引に関する規制(旧取引競争法29条)にも違反するとの判断がなされた。
大規模スーパーによる違反事例(不公正な取引)
大規模スーパーマーケットを運営する事業者が、2011年に行ったキャンペーンが、旧取引競争法29条(現行法の57条に相当)に違反する不公正な取引行為であると認定された。当該キャンペーンの内容は、競合スーパーのクーポンをその2倍の価値で自社の店舗で利用することを認めるというものであった。
取引競争委員会は違反行為を認定したが、違反行為について刑事罰を定めた旧法が既に廃止されているため刑事罰は適用できず、また、新法において当該違反行為について規定されている行政罰については、法律上禁止される遡及処罰に該当するため適用できないとして、刑事罰及び行政罰のいずれの適用も否定した。
②につづく