◇SH3808◇インドネシア:オムニバス法の制定(16)~環境法分野に関する手続の合理化(2) 前川陽一(2021/10/28)

未分類

インドネシア:オムニバス法の制定(16)
~環境法分野に関する手続の合理化(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 前 川 陽 一

 

(承前)

3. オムニバス法による環境法関連手続の合理化

 オムニバス法及びその環境分野における施行規則である環境の保護及び管理の実施に関する政令2021年第22号は、このAMDAL、UKL-UPL及びSPPLという事業活動の環境リスクに応じた分類は温存しつつ、オムニバス法に基づくリスクベース・アプローチの許認可システムに統合し、Online Single Submission(OSS)システム上での必要書類の提出を可能とすることで、環境法関連手続の合理化を図っている(リスクベース・アプローチの許認可システムに関しては、SH3425 インドネシア:オムニバス法の制定(2)〜投資及び事業環境の改善(1)でその概要を解説している。)。

 

 これに伴い、オムニバス法以前においては、AMDAL又はUKL-UPLの評価・承認を経た上で改めて取得申請をする必要があった環境許可手続は、環境承認(Persetujuan Lingkungan)というプロセスに置き換えられた上、上述した新たな許認可システムに組み込まれた。オムニバス法以前は個別の手続であった環境許可手続と事業許可手続が新たな許認可システムの下で統合されることで、事業開始に際しての申請手続の簡素化と手続期間の短縮が期待される。SPPLについては、環境承認の対象でないが、事業識別番号(NIB)の申請時においてOSSシステム上で必要なフォームを提出することが求められる。

 

 AMDALの調査プロセスにおいて、オムニバス法以前は、市民の関与が広く認められ、環境活動家も参加することができたが、オムニバス法による環境法の改正に伴い、市民の関与は、原則として、計画されている事業により直接に影響を受ける地域の住民に限るものとし、環境活動家の参加はAMDALにかかる調査以前から当該地域の環境保護活動に関与していた場合に限って認められることとなった。ステークホルダーとしてプロセスに関与できる者を一定範囲内に限ることで、手続の合理化を進めつつも環境保護という公益の観点からの歯止めは維持した。

 

4. おわりに

 インドネシアにおいては急速な経済成長を遂げる反面、さまざまな環境問題が進展している。これまでも環境法令の整備が進められてきたものの、従来の仕組みは縦割り行政の下で過度に複雑化していた面は否めない。オムニバス法による行政手続合理化の進展が投資促進と環境保護の両面に寄与するものとなることを期待したい。

 


この他のアジア法務情報はこちらから

 

(まえかわ・よういち)

1998年東京大学法学部卒業。2006年東京大学法科大学院修了。2007年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2013年Northwestern University School of Law卒業(LL.M.)。2013年~2016年長島・大野・常松法律事務所ジャカルタ・デスク(Soemadipradja & Taher内)勤務。2019年10月~長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィス勤務。

現在はシンガポールを拠点とし、インドネシア及び周辺国における日本企業による事業進出および資本投資その他の企業活動に関する法務サポートを行っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

 

タイトルとURLをコピーしました