◇SH3822◇インド:緊急仲裁判断の執行に関するインド最高裁判決(2) 梶原啓(2021/11/09)

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インド:緊急仲裁判断の執行に関するインド最高裁判決(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 梶 原   啓

 

(承前)
 

2. 法的論点と最高裁の判断

 最高裁が判断した法的論点は、第1に、SIACの仲裁規則に基づき選任された緊急仲裁人による緊急仲裁判断がインド仲裁法第17条 ⑴ の定める仲裁廷の命令に当たるかどうか、第2に、同法第17条 ⑵ に基づき高等裁判所が緊急仲裁判断の執行を命じた場合にこれについての上訴が許されるか、という2つである。

 第1の論点の理解の前提となるインド仲裁法の条文の建付けは次のとおりである。第17条 ⑴ によれば、当事者は仲裁手続中に仲裁廷に対して暫定措置の発動を求めることができるとされる。第17条 ⑵ は、第17条 ⑴ に基づいて仲裁廷が命じた暫定措置の命令を、インド裁判所の命令と同じように執行可能と定める。しかし、第17条 ⑴ の仲裁廷による暫定措置の命令に、緊急仲裁人による緊急仲裁判断が当たるかどうかは条文上不明である。

 最高裁は、この点について、緊急仲裁人による緊急仲裁判断も第17条 ⑴ の暫定措置の命令に当たると判断した。その理由として、まず、インド仲裁法第2条 ⑹ 及び ⑻ 並びに第19条 ⑵ によれば当事者が仲裁機関と仲裁規則を自由に選択できることを挙げた。次に、第17条 ⑴ は仲裁廷に対して「仲裁手続中(during arbitral proceedings)」に暫定措置を命じる権限を与えるところ、SIAC仲裁規則によればその第3.3条によって仲裁通知(Notice of Arbitration)の受領日が仲裁開始日とされていることに触れ、仲裁通知受領後の緊急仲裁手続は「仲裁手続中(during arbitral proceedings)」に該当するとした。さらに、第17条 ⑴ を同法他の規定と読んだときに、緊急仲裁人制度を含む仲裁機関の規則の適用を妨げるものはないことを指摘し、結論として、第17条 ⑴ の「仲裁廷」には、仲裁機関の仲裁規則の適用がある場合、緊急仲裁人が含まれると解すべきであると判示した。また、これに加えて、緊急仲裁人による暫定措置(それがaward、すなわち仲裁判断の形式でなされたものも含む[3])が、インド民事裁判所の負担軽減に寄与し、当事者にとっての迅速な暫定的救済を与え、インド仲裁法の重要な目的を実現する意義についても触れた。

 第2の論点について、最高裁は、問題となった上訴は許されないと判示した。最高裁によれば、上訴の対象となり得る裁判所又は仲裁廷の命令を列挙するインド仲裁法第37条は、同法に基づく命令や仲裁判断に関する上訴についての完結した条文であり限定列挙と解される。そして、第17条 ⑴ に基づく仲裁廷の命令等は上訴の対象に含まれ得るものの、第17条 ⑵ に基づいてなされた緊急仲裁人の暫定措置を執行する裁判所の命令は第37条の上訴の対象に含まれない。

(3)につづく

 


[3] SIACを含む主要仲裁機関の規則によれば、暫定措置はaward又はorderいずれの形式でも発動されることがある。本判決は第17条 ⑴ の暫定措置にはawardも含まれるという立場で、この点の形式の違いを問題にしていない。

 


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(かじわら・けい)

国際商事仲裁及び投資協定仲裁をはじめとする国際紛争解決を扱う。日本国内訴訟にも深く関与してきた経験をいかし、アジアその他の地域に展開する日系企業と協働して費用対効果に優れた複雑商事紛争処理に尽力する。2013年弁護士登録(第一東京弁護士会)、長島・大野・常松法律事務所入所。2019年ニューヨーク大学ロースクール修了(LL.M. in International Business Regulation, Litigation and Arbitration; Hauser Global Scholar)。Jenner & Block LLPでの勤務を経て、2021年1月から長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィスにおいて勤務開始。

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