ベトナム:新労働法による変更点⑫
女性労働者への待遇
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 井 上 皓 子
引き続き2021年1月1日に施行された新労働法(45/2019/QH14、以下「新法」)による変更点について解説します。今回のテーマは女性労働者への待遇についてです。
なお、新法の日本語仮訳は、JETROのウェブサイト[1]で公開されていますので、併せてご参照下さい。
1 変更内容の概要
論点 | 旧法 | 新法 |
生理・育児のための休憩 |
生理期間中は1日30分かつ1か月に少なくとも3日、12か月未満の子の養育期間中は1日に60分 具体的に休憩を取得する日は使用者との合意により定める |
生理期間中は1日30分かつ1か月に少なくとも3日、12か月未満の子の養育期間中は1日に60分 具体的な特定の日を労働者が使用者に通知する 女性労働者が休憩を取得せず、使用者も労働に従事することに同意した場合、使用者は当該時間について追加賃金を支払う |
重労働等に従事している妊婦への配慮措置の期間 |
妊娠7ヶ月以降産休まで |
妊娠月齢を問わず、使用者に妊娠を通知して以降。また、復職後も12か月未満の子を養育する期間 |
有害業務への従事 |
女性労働者の従事は全面的に禁止 |
労働者が選択できる 使用者は、労働者が選択できるよう業務のリスク等についての情報を十分に提供しなければならない。また、労働安全・衛生にかかる条件を確保しなければならない |
2 生理及び育児のための休憩
生理期間中の女性労働者は1日に30分かつ1か月に最低3日、12か月未満の子を養育している女性労働者は1日に60分、通常の休憩時間に加え、労働時間中に有給の休憩を取得することができます。このような休憩制度自体は、旧法でも定められていましたが、新法では、労働者に有利に変更されました。主要な変更点は以下のとおりです。
まず、生理休憩の最低時間について、旧法でも新法でも1ヶ月に3日休憩を取得することができるとされています。ただし、その取得方法について、旧法下では、職場の実際の状況に応じて使用者との合意により決めることができるとされていました(政令第85/2015/NĐ-CP号7条)が、新法下では、休憩を取得する日を労働者が決定し使用者に通知すればよいとされました(政令第145/2020/NĐ-CP号80条3項)。これにより、労働者が自主的に決定でき、より取得しやすくなったと考えられます。
他方で、実際には生理期間中・育児のための休憩が活用されていない現状があることから、政令第145/2020/NĐ-CP号では、女性労働者が法で認められた生理期間中・育児のための休憩を取得しない場合で、かつ、使用者が女性労働者が仕事に従事することに同意した場合、使用者は、女性労働者が本来休憩を取得できた時間分について、追加の賃金を支払う必要があるとされました。ただし、この時間分については時間外労働とは扱わないこととされているため、割増賃金を支払う必要はありません。政令は、休憩の申請手続き及び使用者の同意について特段の規定を置いていないため、社内規程で定める必要があると考えられます。
3 重労働等に従事している妊婦への配慮措置
次に、重労働などに従事している妊娠中の女性労働者は、より軽易で安全な業務に異動させるか、1日の労働時間を短縮する必要があります。
旧法下では、このような配慮措置の対象は、妊娠7ヶ月以降の女性労働者に限定されていましたが、新法では、妊娠していることを使用者に報告すれば、妊娠月齢を問わず、配慮措置を受けることができることになりました。
また、配慮措置の期限について、旧法下では妊娠7ヶ月以降、産休に入る時までとされ、産休終了後に復職した場合は、元の重労働に戻ることが想定されていました。これに対し、新法では、復職後も12か月未満の子を養育する期間は同様の配慮措置が受けられることになります。
4 有害業務への従事
生殖能力や子の養育に悪影響を与える職・業務の一覧が労働傷病兵・社会問題省により公表されています。旧法では、女性労働者は、これらの業務に従事することが禁止されていました。新法では、女性労働者の労働機会を拡大するため、全面的な禁止ではなく、女性労働者自身が有害業務に従事するか否かを選択できることになりました。ただし、使用者は、女性労働者がきちんとした選択ができるよう、業務の危険な性質、リスク、業務において要求される事項についての十分な情報を提供しなければならず、労働者の労働安全・衛生にかかる条件を確保しなければならないとされています。
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(いのうえ・あきこ)
2008年東京大学法学部卒業。2010年東京大学法科大学院修了。2011年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2018年より、長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス勤務。
日本企業によるベトナムへの事業進出、人事労務等、現地における企業活動に関する法務サポートを行っている。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
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