◇SH3844◇インドネシア:融資及び担保に関する法制の概要(4) 酒井嘉彦(2021/12/02)

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インドネシア:融資及び担保に関する法制の概要(4)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 酒 井 嘉 彦

 

(承前)

5 インドネシアにおける保証制度の概要

 民法上、保証は、債務者が債務を履行しない場合に、第三者が債務者の債務を引き受けることを債権者に対して約束する合意であると定義されている。保証は、債権者と保証人との間の明示的な合意(公正証書又は私的な契約書)による必要があり、保証人は、債務者の債務の一部のみを保証することはできるが、債務者の負担する債務よりも重い債務は負担しない。

 

 民法上、①保証人には、債務者の全ての資産が債務の弁済のために処分・換価されるまで保証債務の履行を拒絶する権利(これは、日本法における催告・検索の抗弁と類似したものである。)、及び、②複数の保証人が存在する場合に、債権者からの請求について連帯責任を負わないように、債権者の保証人に対する請求額を按分することを求めて裁判所に申し立てる権利が認められている。しかしながら、これらの保証人の権利は放棄することができるとされているため、債権者が保証人にこれらの権利の放棄を求めることは一般的に行われている。かかる権利の放棄により、保証人は、日本法における連帯保証人と同様の地位に置かれることとなる。かかる保証人による権利放棄は、保証契約において明示的に規定される必要がある。

 

 なお、法人による保証の場合、会社法は、会社の取締役に、その職務を遂行するにあたり会社の利益のために行動する忠実義務を課しているところ、保証の提供が、かかる取締役の忠実義務に抵触しないかも一応論点となり得る。この点、親会社による子会社のための法人保証については、子会社の利益が親会社の利益につながることから、実務上も許容されている。しかしながら、子会社が親会社のために保証を行う場合には、子会社による保証提供により子会社に利益があることを正当化することは困難であるため、借入人の子会社から保証の提供を受けることは実務上避けられている[1]

 

6 その他の一般的な留意点

⑴ 契約言語

 インドネシア法上、インドネシア法人又はインドネシア人を当事者とする契約は、インドネシア語を用いなければならないとされ、外国当事者を含む契約書に英語版を用いる場合には、少なくとも、英語版とインドネシア語版を同時に締結することが実務上安全な対応であるとされている。実務上、貸付人が外国当事者である場合、英語版により契約交渉を行った上で、英語版の最終草案をインドネシア語に翻訳することが多いため、当該翻訳に要する時間も考慮に入れた契約締結のスケジュールを組むことが推奨される。

 なお、インドネシア語版と英語版との間の解釈に齟齬が生じた場合に備えて、当事者が合意した言語を優先言語とすることができるとされている。もっとも、公正証書の形式で契約が締結される場合は、インドネシア語が原文となるため、実質的にインドネシア語が優先言語となる。

 

⑵ 公正証書

 信託担保権の設定は公正証書の形式による信託譲渡証書が締結される必要があるものの、貸付契約、質権設定契約及び保証契約の締結は公正証書によることは法令上の要請ではない。しかしながら、公正証書による場合、裁判手続等において書証としての証拠価値が高まるため、公正証書の形式で締結することが選択されることもある。

 

 


[1] なお、同様の議論は、他のアジアの国においても存在する。例えば、マレーシアにおいても、親会社のために子会社が保証を提供することは実務上一般的ではなく、親会社により株式取得資金として行われた借入れ等について子会社が保証を提供すること等一定の場合は、法令上明示的に禁止されている。

 


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(さかい・よしひこ)

2011年から長島・大野・常松法律事務所にて勤務し、各種ファイナンス案件、不動産取引を中心に、企業法務全般に従事。2018年から2019年にかけて、Blake, Cassels & Graydon LLP(Toronto)に勤務。その後、2019 年より長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィスにて、主に東南アジア地域における日本企業の進出・投資案件を中心に、日系企業に関連する法律業務に広く関与している。京都大学法学部、京都大学法科大学院、University of California, Los Angeles, School of Law(LL.M.)卒業。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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