◇SH1734◇ベトナム:【Q&A】無効な労働契約 澤山啓伍(2018/03/30)

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ベトナム:【Q&A】無効な労働契約

長島・大野・常松法律事務所

 

弁護士 澤 山 啓 伍

 

  1. Q. 先週、管轄の労働局の監査があり、当社が使っている労働契約のある条項が、労働者が労働組合に参加することを制限しているあるため、この労働契約はその全体が無効であるという指摘を受けました。当社としては、その条項は労働組合への参加を制限する趣旨ではないと考えているのですが、どうすればいいでしょうか?
     
  2. A. 労働者の労働組合への参加を制限する規定が含まれる労働契約は、その全部が無効であるとされています(労働法第50条1項)。しかし、労働契約が無効であるかどうかは労働局ではなく、裁判所が判断することになります。仮にその労働契約が無効であると裁判所が判断した場合には、雇用者は、その判決を受けてから3営業日以内に新たな労働契約を締結し直す必要があります。以下、詳しくご説明します。

 

1. 無効な労働契約

 現行規定上、以下の場合に該当する労働契約は、その全部が無効であるとされています(労働法第50条1項)。

  1. a) 労働契約の内容全てが違法な場合
  2. b) 労働契約の締結者に正当な権限がない場合
  3. c) 両当事者が労働契約で締結した業務が、法律で禁止されている場合
  4. d) 労働契約の内容が、労働者の労働組合の設立・参加・活動の権利を制限又は妨害している場合

 なお、労働契約の一部の内容のみが法律に違反しているが、契約の残りの部分に影響がない場合には、その違反している部分のみが無効とされます。また、労働契約の内容の全部又は一部が、労働者の権利を現行の労働に関する法律・就業規則・労働協約で規定している権利より低い水準で規定している場合、又は労働契約の内容が労働者のその他の権利を制限している場合は、内容の全部又は一部が無効となります。

 

2. 労働契約の無効を判断する権限

 2016年7月1日以前は、労働法第51条において、労働監査及び人民裁判所が、労働契約の無効を宣告する権限を有するとされていました。しかし、2015年に成立した民事訴訟法の第516条により同条項は改正され、その条文から「労働監査」が削除されています。したがって、現時点では、裁判所のみが労働契約が無効であると宣告する権限を有するとされています。つまり、労働監査を行った労働局の担当官が、労働契約が無効であると指摘してきても、それ自体で労働契約の無効が確定するわけではありません。

 

3. 労働契約の無効の判断手続

 上記の通り労働契約が無効であるかは裁判所により判断されます。裁判所に対して労働契約の無効を確認する裁判を提起できる当事者には、労働者、雇用者の他に、労働組合及び管轄機関(労働局)が含まれます(民事訴訟法第401条1項)。したがって、労働者と雇用者の間で特段争いがなくとも、労働局が裁判を提起してくる可能性はあります。裁判の提起があった場合、裁判所は、訴状を受理してから10日以内に、当該訴えを検討し、その期間の満了時に公判を開く必要があります(同法第402条1項)。判決は、申立人、雇用者、労働組合及び労働局に送付されます(同条第6項)。

 

4. 労働契約が無効と判断された場合の処理

 仮に貴社の労働契約について、労働組合への参加を制限する規定があるとして労働局が裁判を提起し、裁判所が当該労働契約を無効と判断した場合、雇用者は、その判決を受けてから3営業日以内に、労働者との間で新たな労働契約を締結する必要があります(政令44/2013/ND-CP号第11条5項)。

 なお、この場合でも、無効な労働契約を締結したこと、又は労働組合への参加を制限していたことについて、雇用者に対して適用される行政罰は現時点では見当たりません。

 

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