フィリピン:私有財産担保に係る全国的な電子登記簿制度の導入
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 酒 井 嘉 彦
1 はじめに
フィリピンでは、2019年12月に施行された私有財産担保法(Personal Property Security Act)に基づき、近々、私有財産担保に関する対抗要件の具備方法として、フィリピン国土登記庁によって設置される中央集中的かつ全国的な電子登記簿(以下「私有財産担保登記簿」という。)への登録制度が導入されることになっている。
従来は、各種法令において担保目的物の種類に応じた異なる対抗要件の具備方法が規定されており、中央集中的かつ全国的な公開の電子登記簿は存在しておらず、担保権の存在や内容についての権利関係を確認できる全国的な枠組みは存在していなかった。しかしながら、私有財産担保登記簿の運用開始後は、何人も私有財産担保登記簿のシステムにログインすることにより、担保権の存在や内容に関する情報を検索してアクセスできるようになることが想定されている。
以下では、来たるべきその運用開始に備えて、あらためて私有財産担保登記簿の制度を概観する。
2 私有財産担保登記簿
私有財産担保法上、私有財産に対して担保権を設定した場合、私有財産担保登記簿に登録することにより、対抗要件を具備することができる。この点、日本における債権・動産譲渡登記制度と、登記により対抗要件を具備できるという点で類似している。他方で、日本における債権・動産譲渡登記制度とは異なり、フィリピンの私有財産担保登記簿は、その利用が担保権設定の場面に限定されている。また、日本における債権・動産譲渡登記制度では、法人による債権・動産の譲渡の場面が対象となっているのに対し、フィリピンの私有財産担保登記簿制度では、そのような担保権設定者の属性に制限はないという違いもある。個人や外国企業も私有財産担保登記簿を利用することができる。
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(さかい・よしひこ)
2011年から長島・大野・常松法律事務所にて勤務し、各種ファイナンス案件、不動産取引を中心に、企業法務全般に従事。2018年から2019年にかけて、Blake, Cassels & Graydon LLP(Toronto)に勤務。その後、2019 年より長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィスにて、主に東南アジア地域における日本企業の進出・投資案件を中心に、日系企業に関連する法律業務に広く関与している。京都大学法学部、京都大学法科大学院、University of California, Los Angeles, School of Law(LL.M.)卒業。
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