ベトナム:【Q&A】給与の前払い
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
- Q. 最近、当社の従業員の数人が、兵役に服するための召集令状を受領しました。それによれば、当該従業員らは、2年間の兵役に行くことになるそうです。そこで、当社は、当該従業員らとの労働契約を解除するつもりでした。しかしながら、当該従業員らからは、そのような一方的な解除(解雇)は違法であり、また、当該従業員らに対して、給与を前払いしなければならないとの主張を受けました。この場合、当社としてはどのようにすれば良いでしょうか?
- A.
- 1. 徴兵を受けた場合の労働契約
- 現在の日本にはない制度なのであまり実感がありませんが、ベトナムでは徴兵制度があります。もちろん、戦時下ではない現在では実際に赤紙(召集令状)を受け取る人は多くはないようで、2016年のデータでは、ハノイ市及びホーチミン市の入隊人数は、それぞれ3,500人(うち志願者は30%)及び4,100人(うち志願者は3%)程度だったようです。今回は、このように確率は高くないものの、従業員に赤紙が来てしまった場合の対応を例として、給与の前払いが必要なケースについてご説明します。
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なお、従業員が兵役義務を履行する場合、その従業員と雇用主との労働契約は終了するのではなく、一時的履行停止がされるものとされています(労働法第32条)。そして、従業員は、この一時的履行停止期間が終了した後15日以内に職場に復帰する権利を有し、使用者はこの従業員を引き続き雇用しなければならないものとされています(同法第33条)。したがって、兵役を理由とする解雇は違法であるという従業員の主張は正しいものと言えます。
- 2. 給与の前払いが必要となる場合
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原則として、給与は労使間の合意に従い、労働契約に記載された期限までに支払われます(政令05/2015/ND-CP号第23条2項)。しかし、現行の労働法では、給与の前払いが必要となる場合を、以下の通り4つ定めています。
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① 従業員が国民の義務を履行するために、1週間以上の期間休業する場合(労働法第100条2項)。この場合、従業員は、1ヵ月分の給与を超えない限度で、その休業期間に応じた給与の前払いを受けることができます。兵役に服する場合以外は、その金額を使用者に対して返金する義務があるとされています(同項)が、この点を反対解釈すると、兵役の場合には1ヵ月分を前払いし、兵役の終了後もその返還を求めることができないということになります。
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② 労働規律違反の審理のための一時業務停止(従業員が労働規律違反を行ったと疑う場合であって、その違反内容が複雑であり、従業員が業務を継続することにより違反の審理が困難になると使用者が判断した場合に、使用者が行うことができる処置。同法第129条1項)を受けた場合(同条第2項)。この場合、前払いする金額は、その一時休業又は業務停止の直前の月の雇用契約に記載された給与額(手当等も含むもの)の半額であり、一時業務停止期間の終了後に実際に違反行為が発見されて処分を行う場合でも、その返還を求めることはできません。
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③ 従業員が年次有給休暇を取得した場合(同法第113条1項)。この場合、従業員は少なくとも取得する有給休暇の日数分に相当する金額の前払いを受けることができることになっています。
- ④ 労使間で合意した場合(同法第100条1項)。この場合に支払われる金額は、合意の内容によります。
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① 従業員が国民の義務を履行するために、1週間以上の期間休業する場合(労働法第100条2項)。この場合、従業員は、1ヵ月分の給与を超えない限度で、その休業期間に応じた給与の前払いを受けることができます。兵役に服する場合以外は、その金額を使用者に対して返金する義務があるとされています(同項)が、この点を反対解釈すると、兵役の場合には1ヵ月分を前払いし、兵役の終了後もその返還を求めることができないということになります。