◇SH1877◇タイ:事業担保法の一部改正と利用の現状 箕輪俊介(2018/05/31)

未分類

タイ:事業担保法の一部改正と利用の現状

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 箕 輪 俊 介

 

 2016年7月に事業担保法(Business Collateral Act)が施行されてから2年近くが経過した。本稿では、同法の施行により導入された新しい担保制度である事業担保の現状の利用状況、及び、2018年3月になされた改正(下位規則の施行)について紹介する。

 

1. 利用の現状

 施行から2年弱が経った現在(注:本稿執筆2018年5月時点)、事業担保の利用は順調に増えている模様である。商務省事業開発局が公表している統計は、2017年3月末時点までのものであるものの、これによれば、利用状況は大要以下のとおりである。

  1.   総登録数:約12,500件
  2.   担保資産総額:約1兆8,400億バーツ(2018年4月時点で約6.2兆円)
  3.   対象資産の概要

 

対象資産 担保資産総額 割合
銀行預金 約1兆500億バーツ
(約3.6兆円)
約57%
賃料 約660億バーツ
(約2,300億円)
約3.5%
売掛債権その他債権 約3,200億バーツ
(約1.1兆円)
約17.5%
動産 約4,020億バーツ
(約1.4兆円)
約22%
知的財産 20億バーツ
(約70億円)
約0.1%
事業
不動産

 

 また、報道によれば、大要、2018年3月時点の利用状況は以下のとおりとなっている。

  1.   総登録数:約20,000件
  2.   利用機関:約50社(内訳:銀行約35行、ファクタリング会社約5社、保険会社約5社)
  3.   担保資産総額:約4兆4,500億バーツ(2018年4月時点で約15兆円)

 上記のとおり、銀行口座や賃料債権及び売掛債権その他債権、動産等での利用が主である。これに対して、事業や不動産は、確認する限り、2017年3月時点では利用がないようである。

 

2. 今回の改正

 事業担保法上、事業担保について担保権者となれる者は、金融機関その他省令の定める者に限定されている(事業担保法第7条)。この点、2016年12月に施行された下位規則により、ファクタリング会社等がその対象に追加されたが、2018年3月の新たな下位規則の施行により、以下の者が追加された。

  1.   中小企業振興基金(その運営管理者としての工業省次官事務局)
  2.   国内に支店を有しない海外の金融機関がタイ国内の金融機関と共に融資する場合
  3.   ハイヤパーチェスやリースを事業目的に含むタイ国内の法人
  4.   融資を事業目的に含むタイ国内の法人

 

3. 改正に対する評価

(1) 外資規制との関係

 今般の改正により、タイ国内に支店を有しない海外の金融機関も一定の条件の下で事業担保権を利用できる者に含まれることとなった。しかしながら、海外の金融機関がタイ国内の資産を対象として担保を取得してタイ企業に対して融資を行う場合、タイ国内でサービス事業を行っているものとして、外国人事業法上の外資規制の適用対象とされる可能性がある(管轄当局である商務省事業開発局のルーリングが存在する)。この見解によれば、海外の金融機関は、今般の改正に基づいて事業担保権を利用してタイ国内の資産に担保を設定した上でタイ国内の法人に融資をすることができるとしても、かかる行為は外資規制の対象となり、原則として商務省の許可(外国人事業ライセンス)を取得する必要が生じる。しかしながら、当局の運用上、かかる状況において外国事業ライセンスを取得することは一般的には難しいと思われる。海外の金融機関が事業担保を利用することを検討する際には、この問題点をどのように解釈し、どのように乗り越えるのか、当局の見解を確認しつつ見定める必要があると思われる。

(2) 対象の拡大範囲

 また、今回の改正に伴い、会社の事業目的に融資やリース等が含まれていれば、事業担保の担保権者となることが認められることとなった。しかしながら、事業目的の変更は比較的容易であるところ、仮に今回の改正が事業目的という形式的要件を充たしていれば事業担保権が利用できるということであれば、今後は、貸付行為等を実際に行ったこともなく、今後も行うことを想定していない者であっても、事業目的に融資やリース等が含まれている限り、事業担保権が利用できるということになる。この点、当局が今後の運用において、登記申請者が事業目的という形式面さえ充たしていれば登記を受け付け、事業担保権を利用することを許容することになるのか、注視していく必要があるだろう。

 

タイトルとURLをコピーしました