◇SH2310◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第6回) 齋藤憲道(2019/02/04)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

第1部 管理をめぐる経営環境の変化

3.バブル経済崩壊~「日本再興戦略」へ 1990年(平成2年)~現在

(1) 経営環境の動向

○ 1990年代に入ると、それまでに高騰した地価や株価等が大幅下落[1]に転じ、土地・株式を担保にしていた銀行の融資に担保不足が発生し、不良債権が増大してバブル経済の崩壊が始まった。

 1990年代半ば以降、多数の金融機関が破綻する[2]金融危機が発生し、1998~1999年に政府が銀行に大規模な公的資金を注入するに至った。

○ 1994年に日本で製造物責任法が制定された。

 製品事故被害者の救済を容易にする観点から、製品を製造(又は輸入)した業者は、自らの「過失」がなくても、製品に「欠陥」があることが証明されれば、損害賠償責任を負う。

○ 通商分野では、1989年にAPEC[3]が発足[4]して以降、1995年にWTO(世界貿易機関)が設立される少し前からグローバルな枠組み作りが進み、日米貿易摩擦でも包括的な交渉が増えた。

○ 1995年頃から急速にインターネットが普及し、2000年頃になると「IT革命」と呼ばれるほど、企業のオフィス環境が大きく変わった。

 汎用ソフトウェアの種類が増えて、コンピュータを利用するための特別なプログラミング技術があまり必要でなくなり、通信・情報処理コストも格段に低下した。こうして、ITは経営活動に不可欠のものになった。

 1990年代以降、情報通信技術(ICT)をツールとして、新たなビジネスや管理手法が続々と生まれる。

 特に、小売店・運輸・銀行・教育・医療等の業界では、業務の主要部分がソフトウェア(コンピュータ・システム)で構成されるようになり、業態が大きく変わった。

 現在、ICTの利便性向上に反比例するように、情報セキュリティ対策コストが増大し、大きな経営課題になっている。

○ 2013(平成25年)に発足した第2次安倍内閣で「日本再興戦略[5]」が閣議決定され、以後、毎年、更新されている。

 2013年以降、日本経済は不況を脱して求人倍率も上がり、外人観光客が増加したこともあって、社会の閉塞感が薄らいでいる。

〔対米貿易摩擦の例〕 対欧州でも米国と類似の輸出規制が行われた。

1989年 第1回APEC閣僚会議開催

1989~1990年 日米構造問題協議 Structural Impediments Initiative(SII) 1990年最終報告[6]

1991年 第2次日米「半導体」協定締結(日本市場で外国系半導体の参入機会拡大、ダンピング防止等)

1993~1997年 日米包括経済協議(政府調達、保険、自動車、部品を優先分野として交渉)[7]

1993年 GATT・ウルグアイラウンドで日本がコメ輸入を部分開放。

1993年 EU(欧州連合)設立[8] 

1995年 WTO設立

1997~2001年 日米規制緩和対話

1999年 日本がコメ輸入を開放して、関税化した。

2001~2009年 「成長のための日米経済パートナーシップ」 6つのフォーラム[9]を設置して協議。

  1. (注) 日米間の協議では、コーポレート・ガバナンスに関して、機関投資家の議決権代理行使の推進、少数株主利益の保護、証券取引所による強化の推進、社外取締役の独立性確保等の議論が行われた。

2016年 環太平洋諸国が参加するTPP協定(12カ国)が署名された。しかし、2017年に米国が離脱。 

2018年 TPP協定(米国を除く11カ国)が署名された。米国は、世界の主要国に2国間FTA交渉を要求。

○ この時期の消費者問題とその対策には、次の3つの特徴がある。

  1. 1) 2009年に消費者庁と消費者委員会が新設された。
    これにより、行政の中で消費者問題を恒常的に本来業務として取り扱うことが明らかになった。
  2.   (注) 以前は、消費者問題を「行政と対立するもの」「行政が保護する対象」と位置づける者が多かった。
     
  3. 2) 消費者が権利行使して司法的救済を得る制度が充実した。
    消費者基本法が定める「消費者の権利の尊重」を具体化した成果といえる。
     
  4. 3)「消費者基本計画(5カ年)」を閣議決定して運用する仕組み(消費者基本法9条)が定着した。
    テーマが具体的になり、計画策定時から5年後の目標まで追跡・監視しやすくなった。

〔消費者問題〕

(傾向)
 ・ 取引トラブルによる被害が大きくなる傾向がある。(特に、ネット販売、預託商法)
 ・ 製造業者に関しては、不正行為を長年にわたって隠蔽する不祥事が目立つ。

1992年 カード破産が増加、多重債務が社会問題化 →2003年自己破産 24万件超

1994年 製造物責任法(PL法)制定

1999年 ダイオキシン対策法制定

2000年 雪印乳業食中毒事件

    消費者契約法制定(不当な勧誘による契約を取り消し、不当な契約条項を無効化)

2004年 消費者基本法(消費者保護基本法を改正・改題)、公益通報者保護法制定、ADR法制定

2006年 消費者団体訴訟制度を創設(消費者契約法を改正し、適格消費者団体に訴権を付与した。)

2006年 パロマ工業製のガス瞬間湯沸器による一酸化炭素中毒死事故が多数発生していたことが判明

2007~2008年 中国産冷凍餃子事件(有機リン中毒患者が千葉・岡山等で重篤患者を含めて10名発生)

2008年 国民生活センターに「紛争解決委員会」設置(ADR機能を持つ)

2009年 消費者庁・消費者委員会設置

2011年 消費者庁に「越境消費者センター[10]」を設置し、国境を越えたネットトラブル相談に対応

2012年度から3年間で1万件超に対応(約半分が有名ブランド模倣品)。

2011年 安愚楽牧場事件[11] 繁殖母牛に投資して、生まれる子牛の売却代金を利潤にする「預託商法」が経営破綻

2012年 消費者庁に「消費者安全調査委員会(通称:消費者事故調)」設置

2012年 消費者教育推進法制定 

    「消費者教育」「消費者市民社会」を定義。国・地方公共団体の責務、消費者団体・事業者等の努力を規定

2013年 消費者裁判手続特例法制定

2014年 タカタ製エアバッグの安全問題が発覚

    同社は2017年に1兆円以上とされる負債を抱えて、東京地裁に民事再生法適用を申請。

2015年 ドイツのフォルクスワーゲンがディーゼル車の排気ガス・データを偽装していたことが判明

2016年 三菱自動車が燃費を偽装していたことが判明

2017年 日産自動車が、工場の完成検査において無資格検査員が合否判定を行っていた(保安基準違反)ことが判明し、該当車110万台[12]をリコール。



[1] 1990年初から株式・債券・円が値下りし、「トリプル安」と呼ばれた。

[2] 1991年7月に東邦相互銀行が破綻したのに続き、92~94年度に2信用金庫、5信用組合が破綻。95~99年度の5年間に16銀行(北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行等)、10信用金庫、76信用組合が破綻。2000~2001年度の2年間に2銀行、15信用金庫、53信用組合が破綻。2002年度以降の破綻は2003年度1銀行、2010年度1銀行、2011年度1銀行。

[3] アジア太平洋経済協力(Asia Pacific Economic Corporation)

[4] 1989年にAPEC(アジア太平洋経済協力)第1回閣僚会議(オーストラリアで開催。ASEAN6と韓NZ豪加米日の12メンバーが参加)。第2回(1993年、米国シアトルで開催)から首脳会議を開催。

[5] 2013年版では、3つのアクションプラン(1日本産業再興プラン 2戦略市場創造プラン 3国際展開戦略)が示された。

[6] 〔日本側措置〕貯蓄・投資パターン、流通(大店法改正等)、排他的取引慣行(独禁法及びその運用の強化等)、系列関係、価格メカニズム。〔米国側措置〕貯蓄・投資パターン、企業の投資活動と生産力、企業ビヘイビア、政府規制、研究・開発、輸出振興、労働力の教育・訓練。 

[7] 〔合意内容〕政府調達(電気通信、医療技術)、規制緩和及び競争(保険、金融サービス)、自動車・自動車部品、経済的調和(投資促進のための措置、特許の英語出願他、板ガラスの輸入促進措置等

[8] 1950年の仏外相「シューマン宣言」で発表された「シューマン・プラン」を基礎として、1952年にECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)が誕生し、後のEUの母体となる。1958年にEEC(欧州経済共同体)とEAEC(欧州原子力共同体)が設立され、1967年にこの3者の執行・決定機関等が統合されてEC(欧州共同体)ができた。1993年に「マーストリヒト条約(欧州連合条約)」によりEUが発足し、2009年以後のEU運営は「リスボン条約」に基づいて行われている。

[9] ①次官級経済対話、②民間会議、③規制改革及び競争政策イニシアティブ(電気通信、情報技術、エネルギー、医療機器及び医薬品、競争政策、透明性、法制度改革、商法改正、流通を含む主要分野について協議)、④財務金融対話、⑤投資イニシアティブ、⑥貿易フォーラム

[10] 2015年度から国民生活センタ―に移管

[11] 被害者数約7万3,000人、被害金額約4,207億円(「いわゆる『預託商法』につき抜本的な法制度の見直しを求める意見書(2018年7月12日 日本弁護士連合会)」の記載を引用。)

[12] 2018年1月12日に国土交通省が台数訂正発表

 

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