企業におけるフリーランスとの契約(上)
レイ法律事務所
弁護士 佐 藤 大 和
1 はじめに
2017年はフリーランス元年といわれ、現在、企業における個人事業主であるフリーランスの需要は高まっており、フリーランスと業務委託契約等を締結して仕事をすることが多くなっている。今後もインターネット環境の整備や働き方改革の影響もあり、フリーランスの需要は日増しに高まっていくと思われる。それと同時にフリーランスに関する法的問題も増え、フリーランスの権利保護が社会問題になっている。
フリーランスは、上述のとおり個人事業主であり、当然ながら労働者ではない。そのため、基本的には労働法令の適用はなく、適用されるのは、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律や下請代金支払遅延等防止法などの経済法である。2018年2月15日には、公正取引委員会は、「人材と競争政策に関する検討会報告書」のなかで、フリーランス、スポーツ選手や芸能人等の人材の獲得をめぐる競争に対する独占禁止法の適用関係及び適用の考え方を公表した[1]。
ところで、すべての個人事業主について労働法令が適用されないわけではない。たとえば、野球選手は、所得税法上では「事業所得者」と扱われ、労働基準法上は「労働者」ではないとの理解が一般的であるが、労働組合法上は「労働者」と認められている。また、契約上は、個人事業主とされていても、裁判において、実際の活動実態など客観的な事情から、労働者と認定されることが少なくない。
そして、労働者(労働基準法および労働契約法上の労働者。以下ではこの意味で用いる。)と認定された場合、労働法令が適用されるだけではなく、社会保険等も適用されうる。つまり、労働者と認定されたフリーランスから最低賃金法に満たない賃金や未払いの残業代を請求されるだけではなく、社会保険料も請求される可能性があり、労働者と認定された場合の企業側のリスクは決して低くはない。
もっとも、一言でフリーランスといっても仕事内容は様々である。本稿では、裁判例等を踏まえて、主として知的財産を生み出すフリーランスに注目し、フリーランスがどのような場合に労働者と認定されるかについて、契約書における注意点に触れながら解説する。
2 裁判例と契約上の注意点
⑴ 従来の判断要素と裁判例
労働者とは、事業に使用されて労働し、賃金を支払われる者とされており(労働基準法9条、労働契約法2条1項)、労働者性を判断する上で「使用」性と「賃金」性を重要な要素としている。その上で従来の裁判では、主に使用性については、①仕事の依頼等への諾否の自由、②業務遂行上の指揮監督の有無、③勤務時間・勤務場所の拘束性の有無、④他人による代替性の有無[2]、そして賃金性については、⑤報酬の労務対償性などを客観的な事実から総合的に判断し労働者性を認定している[3]。
原告である芸能事務所と被告である歌手との間に締結されたマネジメント契約について争われた事案において、裁判所は「被告は原告を通じてのみ芸能活動をすることができ,その活動は原告の指示命令の下に行うものであって,芸能活動に基づく権利や対価はすべて原告に帰属する旨の本件契約の内容や,実際に被告が原告の指示命令の下において,時間的にも一定の拘束を受けながら,歌唱,演奏の労務を提供していたことに照らせば,本件契約は,被告が原告に対して音楽活動という労務を供給し,原告から対価を得たものであり,労働契約に当たるというべきである。」と判断している(東京地判平成28・3・31判タ1438号164頁)。
当該裁判例では、歌手が芸能事務所に対して提供する労務が、表現、創作活動を伴う特殊な労務であり、指示命令になじまない部分があることを認めつつも、専属性、権利の帰属及び指示命令下等の事情であることから、歌手の労働者性を認めている。
なお、当該裁判例は、歌手の労働者性が争われたが、同様に知的財産を生み出すフリーランスとしては、アイドル、作詞作曲家、イラストレーター、漫画家、写真家、クリエイター及びプログラマーなどが考えられる。
(下)につづく
[1] 公正取引委員会競争政策研究センター「人材と競争政策に関する検討会報告書」(平成30年2月15日)
[2] 労働者性が争われている裁判例では、使用者(事業者)の了解を得ずに、自らの判断で他の者に労務を提供させ、あるいは補助者を使うことが認められていない場合には、仕事に代替性が認められていないとして、使用性が強くなるとしている(東京高判平成14・7・11(映画製作における撮影技師が映画製作会社との関係で労働者性を認めた裁判例)判時1799号166頁参照)。
[3] 水町勇一郎『労働法〔第6版〕』(有斐閣、2016)66頁