◇SH2404◇ベトナム:投資法改正第一草案における外資規制対象の定義 井上皓子(2019/03/15)

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ベトナム:投資法改正第一草案における外資規制対象の定義

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 井 上 皓 子

 

 ベトナムにおいて外国からの投資の可否・手続を確認する上で最も重要な法律である現行投資法は2014年に公布、2015年に施行されたが、当初から予定されていた立法計画に従い、改正時期を迎え、この度その改正法ファーストドラフト(以下「改正案」)が発表された(なお、企業法も同時に改正される予定であり、こちらもファーストドラフトが発表されている)。この中には、外資規制の対象となる企業の定義の変更が盛り込まれている。改正案は現在パブリックコメントに付されており、改正法施行までに大幅に内容が変更される可能性もあるが、これが施行されれば、日系企業のベトナムビジネスに大きな影響があると考えられるため、現時点で内容を概説する。

 

1 現行法

 現行投資法3条14項は、「外国投資家」を以下のとおり定義している。

  1.  「外国投資家」とは、外国の国籍を有する個人、外国の法令に基づいて設立された組織でベトナムにおいて経営投資活動を実施するものをいう。

 その上で、外資規制を受けるべき企業については、23条1項で次の3つの場合を規定している。

  1. a. 外国投資家が定款資本の51パーセント以上を保有する場合、又は有限会社であれば過半数の社員が外国人である場合。
  2. b. a号に規定される法人が定款資本の51パーセント以上を保有する場合。
  3. c. 外国投資家及びa号に規定される法人が定款資本の51パーセント以上を保有する場合。

 すなわち、外資規制を受ける企業であるかどうかは、外資の出資比率が51%を超えているかどうかという定量的な一点のみで判断されている。

 また、少なくとも文言上は、100%外資のベトナム子会社が、ベトナムで孫会社を設立し、さらに当該孫会社が出資比率で51%を超えるひ孫会社を設立した場合、このような孫会社は外国投資家として扱われるものの、ひ孫会社については外資規制を受けることになるという明示的な規制はないものと理解される(ただし、この点については、かつて貿易等の分野では当局から否定的な見解が出されていたことがある)。

 したがって、外資規制を受ける分野でベトナム企業に出資する場合に、外資規制を受けることなく影響力を確保するため、出資はマイナーにとどめた上で、定款の変更等重要な決定についてはマイナー株主の同意を必要とする、代表取締役の指名権は確保する等、株主間契約等において諸々のストラクチャーが工夫されてきた。

 

2 改正案

 改正案は、3条17項において、以下のとおり規定する。

  1. 外国投資家による支配権関係を有する企業組織とは、次のいずれかに該当する場合をいう。
  2. a. 当該企業組織の設立時資本金又は普通株式の総数の50%超を所有する外国投資家
  3. b. 直接・間接を問わず、過半数又は全ての取締役又は登録代理人を指名することができる外国投資家
  4. c. 当該企業組織の定款の変更及び更新を決定することができる外国投資家

 この改正法は、実質的な基準を導入したものであり、これまでの定量的な定義では補足しきれなかった、出資こそマイナーではあるが実質的には外資企業が支配していると理解される企業を外資企業として捕捉されることに主眼を置いているものと理解される。改正法に従えば、出資比率がマイナーであっても、議決権や株主間契約等の設計によっては、外資規制の対象となる可能性があり、外資規制の対象となる企業が拡大することが想定される。

 他方で、改正法に盛り込まれた諸要素は、出資比率とは異なり、企業登録情報において定量的に確認できる事情ではないため、外資規制の対象となる企業であるかどうかについて、どのような資料をもって証明するのか、またその誰がどのように判断するのか等について不透明な点が多く残されている。

 ベトナムでは、法案(改正案も含め)のドラフトが発表された後、パブリックコメントの募集や国会審議等の手続きを経て、最終案が第一草案から大幅に修正されるということも珍しくないが、今後の議論と法案の行方が注目される。

 

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