◇SH2490◇シンガポール:国際仲裁の最新動向 2019 青木 大(2019/04/18)

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シンガポール:国際仲裁の最新動向 2019

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 青 木   大

 

1 シンガポール国際仲裁センター(SIAC)における新件数の推移

 SIACの2018年における新件受任数は402件という結果となった。ここ10数年にわたり基本的に右肩上がりの伸びをみせていた受件数であるが、今年は前年を下回ることとなった。2017年は前年から100件近い増加を示しており、その反動という見方もできる。ただし、2018年の新規受任案件の訴額の合計は96.5億シンガポールドルと2017年の53.5億シンガポールドルから大きく伸びている。

2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
99 160 197 188 235 259 222 271 343 452 402

 

2 国別新件数の推移

 シンガポールを除く国別新件数(申立人側・被申立人側の当事者の合計)では、1位米国、2位インド、3位マレーシアとなった。日本の当事者が関係する案件は30件と、過去3年連続で増加しており、全体でも10位にランクインし、日本企業がSIACの主要なユーザーとして定着してきた感がある。内訳をみると、申立人側10件、被申立人側20件(前年は申立人側13件、被申立人側14件)となっており、相対的に日本の当事者が被申立人として仲裁に巻き込まれるケースが増えてきている。

  2015 2016 2017 2018
1 インド(91) インド(153) インド(176) 米国(109)
2 中国(46) 中国(76) 中国(77) インド(103)
3 韓国(34) 米国(42) スイス(72) マレーシア(82)
4 米国(33) インドネシア(38) 米国(70) 中国(73)
5 オーストラリア(32) 韓国(38) ドイツ(68) インドネシア(62)
6 ベトナム(29) オーストラリア(36) 香港(38) ケイマン諸島(53)
7 香港(26) マレーシア(28) UAE(34) UAE(51)
8 インドネシア(24) 香港(27) インドネシア(32) 韓国(41)
9 BVI(15) 英国(27) 日本(27) 香港(38)
10 マレーシア(15) オランダ(19) 韓国(27) 日本(30)
日本 8件 13件 27件 30件

 

3 契約準拠法

 紛争の対象となった契約の準拠法については、前年とほぼ同様で、シンガポール法及び英国法の比率が高い。

  2015 2016 2017 2018
1 シンガポール法(59%) シンガポール法(49%) シンガポール法(61%) シンガポール法(56%)
2 英国法(21%) 英国法(19%) 英国法(21%) 英国法(18%)
3 その他(9%) 特定なし(12%) その他(8%) その他(13%)
4 インド法(6%) インド法(9%) 特定なし(6%) 特定なし(7%)
5 特定なし(5%) その他(11%) インド法(4%) インド法(6%)

 

4 緊急仲裁

 緊急仲裁とは、仲裁廷構成前に仮差押えや仮処分等の暫定的処分を緊急的に選任された緊急仲裁人に求めることができる制度で、SIACでは2010年から導入されている。緊急仲裁手続の申立件数は2018年において12件と、2017年の19件から減少している。緊急仲裁を用いて仮差押えや仮処分を得ることが有効な事案というのはある程度限られているためか、緊急仲裁の活用が年を追って活発化しているというわけでもなさそうである。

 

5 早期却下手続(Early Dismissal)

 2016年新規則で導入された早期却下手続(Early Dismissal)については、2018年において17件の申立がなされ、そのうち最終的に認められたのは3件という結果になった。早期却下のためには①明らかに法的根拠を欠く、あるいは②明らかに仲裁廷の管轄外であるという高い要件を満たす必要があることが一因と考えられる。

 

6 まとめ

 SIACにおける仲裁は引き続き活況を維持しているが、新件数の伸びは一服し、一つの安定期に入ってきている印象も受ける。昨年の英国Queen Mary大学の調査(http://www.arbitration.qmul.ac.uk/research/2018/)では、シンガポールは人気ある仲裁地として初めて香港を抜いて世界で第3位となったが、今後ロンドンやパリなどと伍していくためには、どのように更なるユーザーを引きつけることができるかが問われてくることになろう。

 

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