中国:独占的協定及び市場の支配的地位の濫用による違法所得の没収の計算に関する最新動向
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 德地屋 圭 治
中国の独占禁止法の適用対象は、事業者集中(企業結合案件)、独占的協定及び市場の支配的地位の濫用に分けることができる。事業者集中とは、他の事業者の株式取得等の企業結合により競争に影響を及ぼす行為である。独占的協定は、競争者や上流下流の事業者との間で競争を制限する合意を行う行為である。市場の支配的地位の濫用案件とは、事業者がその市場における支配的な地位を濫用して他の事業者を市場から排除する等する行為である。これらのうち、独占的協定及び市場の支配的地位の濫用に関しては、中国の独占禁止法上、違反事業者に対し、過料の処罰のほか、違法所得の没収が定められている。近時、独占的協定等に関して日本企業に対し多額の過料を含む厳しい処分が出されているものの、こと違法所得の没収の具体的な内容については、処罰のうち重要な一部を占めうるにもかかわらず、日本企業にはあまり知られていないものと思われる。しかし、この点は日本企業が中国ビジネスに関し把握しておくべき重要なリスクの一つと考えられるため、本稿では、この違法所得の没収についての規定や実務に関し、現在における中国での最新の動向について紹介することとしたい。
1 所管の政府機関
中国の独占禁止法を執行する政府機関は、案件の種類によって異なる。即ち、独占的協定案件及び市場における支配的地位の濫用案件のうち、価格に関連する案件は、中国国家発展改革委員会・地方発展改革委員会(以下「発改委」)が主管し、価格に関連しない案件は、国家工商行政管理総局・地方工商行政管理部門(以下「工商局」)が主管することとされている(ちなみに、事業者集中案件については、商務部が主管する。)。以下に述べる点も含め、いずれの政府機関が主管するかにより、取り扱いが異なることがあるので、留意する必要がある。
2 違法所得の計算に関連する規定
独占禁止法及び独占禁止法の関連規則においては、違法所得の没収を処罰方法の一つとして規定しているものの、その計算方法については明文の規定がない。
この点、工商局は、行政処罰案件違法所得認定弁法という、(独占禁止法に直接関するものではないが)一般的な行政処罰案件に関する違法所得の計算方法を定めている。すなわち、同弁法においては、違法所得の計算方法について、違法な生産、商品販売又はサービス提供により獲得した全ての収入から、当事者が経営活動に直接用いた適当な合理的支出を控除した金額をもって、違法所得として認定する旨定められている。具体的には、①違法に生産した商品の違法所得は、当該商品の全ての販売収入から原材料仕入価格を控除し、②違法に販売した商品の違法所得は、当該商品の販売収入から当該商品の仕入価格を控除して計算し、③違法に提供したサービスの違法所得は、当該サービスの提供による全ての収入からサービスにおいて使用する商品の仕入価格を控除して計算するとされる。さらに、処罰前に当事者が法律、法規又は規定により納付した税額も控除されるとされている。
上記は、工商局の規定であり、独占禁止法よりも下位にある法令であるが、どのような範囲で当該規定が参考にできるかが中国の実務上問題とされている。以下実例をもとに現在の実務を紹介したい。
3 実例
(1) 工商局案件
広東恵州における水道供給サービス・工事事業の会社(广东惠州大亚湾溢源净水有限公司)が不動産開発会社との間で締結した水道供給契約に不合理な取引条件を付したのは支配的地位の濫用であるとして、広東省工商行政管理局が処罰した案件において、同局は、濫用行為があった過去4年間において不合理な条件を付して契約を締結した取引について、それら取引にかかる収入から、経費及び税金を控除した金額を違法所得と認定し、これを没収する決定を下している。この件以外にも、公表されている工商局の他の幾つかの案件において、工商局は、同様の計算方法により違法所得を認定している。したがって、工商局が主管する案件においては、基本的には、違法な生産、商品販売又はサービス提供により獲得した全ての収入から、当事者が経営活動に直接用いた適当な合理的支出及び納税額を控除した金額が違法所得として認定されているといえよう。
(2) 発改委案件
これに対し、発改委が主管する価格関連の独占的協定や支配的地位の濫用案件で違法所得の没収をしたものにおいては、決定書等において、違法所得の計算方法に特段触れられておらず、発改委の考え方は明らかではない。しかし、実務上、発改委は、価格関連の独占的協定や支配的地位の濫用案件における違法所得については、違反期間における販売数量に、製品一個あたりの独占的価格と競争価格との差額を乗ずることにより計算しているとの指摘もなされている。発改委の考え方は現時点で必ずしも明確ではないが、今後の実務例に注意する必要があろう。
以上