ベトナム:【Q&A】通勤中の交通事故と労働災害(下)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
- Q: 最近、弊社の従業員が朝の出勤中に交通事故に遭い、入院加療を要する怪我をしてしまいました。この場合は労働災害として認められるでしょうか?また、この場合、弊社はどのような責任を負うことになるでしょうか。
- A:
(承前)
前稿でご説明した内容に従い、ご質問の交通事故が、合理的な時間とルートで住居から職場への往復の通勤途中の事故である場合で、事故により労働能力が5%以上喪失された場合には、労災保険の適用対象となります。また、通勤途中の事故で、当該事故が他者の過失により発生した場合または事故の加害者を確定できない場合には、使用者は、労働能力の喪失率に応じて補償責任(前回の表中の金額の40%以上のもの)を負うことになります。なお、この補償責任は、民間の労災保険に加入することでカバーすることができます(労働安全衛生法第39条第3項)。
Ⅱ. 労働災害が発生した場合の対応
労働安全衛生法第35条第1項によれば、使用者の管理管轄下にある労働者が事故に遭って傷害を負った場合、その事故が労働災害に該当するかどうかを確認するため、使用者は、労働災害調査委員会を設置し、同委員会をして労働災害調査議事録を作成し、労働災害に該当するかどうかの判断をさせる必要があります。
したがって、ご質問の出勤中に発生した交通事故について、これが労働災害制度の対象かどうかを判断するために、まずは事故の調査を行い、通常の通勤ルート及び時間上で発生したものなのか、労働者の過失の有無、事故の原因などを検証する必要があります。なお、通勤中の事故の場合、警察から事故現場捜査記録、見取図、交通事故調査記録書等の提出を受けることができることになっています。
Ⅲ. その他の使用者の責任
労働災害が発生した場合、使用者は、上記の補償責任の他に、以下のような責任も負うことになります。
- • 労働災害に遭った労働者(「被災者」)の応急措置救護を迅速に行うこと。
- • 被災者が労働能力の喪失率の医学鑑定、治療、介護、機能回復を受けられるように医学鑑定評議会に紹介すること。
- • 被災者の健康状態に応じた業務に配置すること。
- • 労働災害の保険適用申請書類を作成すること。
- • 以下の支払い義務を負うこと。
- ▶ 被災者の応急措置救護及び治療に係る費用の立替。
-
▶ 以下の状況に応じて、被災者の応急措置救護から治療までの発生費用。
- ◦ 共済又は医療保険に加入している被災者に対し、医療保険等でカバーされない費用。
- ◦ 被災者が医学鑑定評議会にて労働能力の喪失率鑑定のための診察を受けるように勧め、その結果被災者の労働能力の喪失率が5%未満の場合、労働能力喪失率鑑定のための費用。
- ◦ 医療保険に加入していない被災者の医療費。
- ▶ 治療のため又は労働機能回復期間中に欠勤した被災者の給料全額。