◇SH2991◇法務省、「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案」(令和元年12月3日)取りまとめを公表 足立理(2020/01/31)

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法務省、「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に
関する中間試案」(令和元年12月3日)取りまとめを公表

岩田合同法律事務所

弁護士 足 立   理

 

 令和元年12月3日開催の法務省 民法・不動産登記法部会第11回会議において、「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案」(以下「本中間試案」という。)が取りまとめられ、令和2年1月16日、本中間試案及びその補足説明(以下「本中間試案補足説明」という。)が、公表された。以下では、共有物(遺産共有の場合を除く。)を事実上使用する共有者の同意の要否に関する問題に対する本中間試案の考え方を紹介する。

 

1 本中間試案策定の経緯

 近年、土地の所有者が死亡しても相続登記がされないこと等を原因として、不動産登記簿により所有者が直ちに判明せず、又は判明しても連絡がつかない所有者不明土地が生じ、その土地の利用等が阻害されるなどの問題が生じている。かかる社会経済情勢に鑑み、平成31年2月、民法・不動産登記法部会が設置され、当該部会は、同年12月までに本中間試案を取りまとめた(本中間試案補足説明「はじめに」参照。)。

 

2 共有物を事実上使用する共有者の同意の要否に対する本中間試案の考え方

⑴ 共有物の管理行為

【本中間試案第1の1⑴①】

 民法第252条の規律(共有物の管理に関する事項に関する規律)を次のように改める。

  1. ① 共有物の管理に関する事項を定めるときは、民法第251条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
  2. ② 以下 略

 共有物の「変更又は処分」をするには共有者全員の同意を要するものとし、「管理に関する事項」は持分の価格に従ってその過半数で決するものとするなどの民法の規律(民法第251条及び第252条)は、本中間試案においても、基本的に維持することとしている(上記本中間試案第1の1⑴①、本中間試案補足説明第1部第1の1⑴の補足説明1⑴〔3頁〕)。もっとも、例えば⑵で紹介する事例においては、当該事例に係る行為が「管理に関する事項」であるにもかかわらず、共有者全員の同意を要するとの解釈が有力であることにより、共有者の一部に反対する者がおり、又は共有者の一部に所在等が不明な者がいて全員の同意を得ることができない場合には、当該行為を実施することを断念せざるを得ないといった事態が生じている。かかる事態を解決するための試案が、以下で解説する本中間試案第1の1⑴②である。

⑵ 共有物を事実上使用する共有者の同意の要否

 理解の便宜のため、まず具体例を紹介する。

A、B及びCは、建物甲を共有している。共有持分権はそれぞれ3分の1ずつであり、これまでにA、B及びCの間で甲の利用方法に関する合意がなされたことはない。AがB、Cに断りなく、甲を単独で使用している場合に、B及びCは相談のうえ、「建物甲については、Bが単独で使用する。」との定めを設ける旨合意し、Aに甲の明渡しを求めることができるか。

【本中間試案第1の1⑴②】

  1. ① 略
  2. ② 共有物を使用する共有者(①本文の規律に基づき決定された共有物の管理に関する事項の定めに従って共有物を使用する共有者を除く。)がいる場合であっても、その者の同意を得ることなく、①本文の規律に基づき共有物の管理に関する事項を定めることができる。
  3. ③ 以下 略

 現行法下では、特段の共有者間の定めなく共有物を使用(占有)している共有者Aがある場合に、本来は持分の価格の過半数(B及びCの合意)で決することができる共有物の管理に関する事項の定め(共有物を実際に使用する者をBと定めるなど)をするにも、共有物を現に使用する者Aの同意なくその利益を奪うことは相当でないことを理由に、全ての共有者(A、B及びC)の同意を得なければすることができないとする見解が有力であるが、そのように解した場合、共有物の利用方法が硬直化することになるとの問題が指摘されている(本中間試案補足説明第1部第1の1⑴の補足説明2⑴〔4頁〕)。

 中間試案第1の1(1)②の考え方によれば、実際に共有物を使用している共有者Aの同意を得ることなく、各共有持分の価格の過半数(B及びCの合意)により、実際に共有物を使用している共有者Aとは別の者(例えば、B)が共有物を独占的に使用することを定めることもでき、その定めにより独占的に使用することが認められた共有者Bは、従前共有物を使用していた共有者Aに対し、引渡しを求めることができることになる[1](本中間試案補足説明第1部第1の1⑴の補足説明2⑵〔4頁〕)。

 

3 結語

 所有者不明土地に関する論点は、個人間の不動産取引等の場面だけでなく、プロジェクト・ファイナンス等において、企業が一定規模の土地を多数人から買い受ける場合にも深刻な問題となって表れる。本中間試案については、本年1月10日から同年3月10日までの期間において、パブリック・コメントの手続きが実施される予定であり、今後の部会の動向が注目される。

 



[1] なお、最一判昭和41・5・19民集20巻5号947頁は、共有物の持分の価格が過半数を超える者であっても、共有物を単独で占有する他の共有者に対し、当然には、その占有する共有物の引渡しを請求することができないとしている。この判例の解釈については様々な捉え方があり得るが、この判例は、直接的には、特段の定めがないまま共有者が共有物を使用している場合に、共有物の管理に関する事項を持分の価格の過半数で定めることの可否については判断していないとの立場をとれば、上記の帰結は、この判例と矛盾していないこととなる。もっとも、学説の中には、この判例は、特段の定めなく共有物を使用する者がいる場合には、その者の同意なく、共有物の使用者を定めることはできないことをも含意しているとする意見もある(本中間試案補足説明第1部第1の1⑴の補足説明2⑵〔4頁〕)。

 

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