タイ:固定資産税法(Land and Building Tax Act)の施行
~徴収の延期~(上)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 奥 村 友 宏
タイにおいては、2019年3月13日に固定資産税に関する新たな法律であるLand and Building Tax Act(以下、「固定資産税法」という。)が施行された。タイにおいては、不動産に対して課税する法制として、従来、土地家屋税法(House and Land Tax Act)があり、これにより不動産の所有者に対して不動産(但し、居住目的の不動産は対象外)の賃料評価額に応じて税金が課される税制等が存在していた。固定資産税法は、これらに代わる不動産に対する課税の法制である。固定資産税法が制定され、新たな課税法制が導入された理由として、一般に税収の増加を企図していたものとして考えられている。固定資産税法に基づき、当初は2020年4月から固定資産税の徴収がなされることとされていたが、2019年12月に固定資産税法に基づく徴収を含む諸手続の延期がタイの内務省から発表された。今回は、この固定資産税法の概要と手続きの延期の状況について、二回に渡り解説したい。
1. 固定資産税法に基づき固定資産税が課される対象者
固定資産税法上、自然人又は法人で、土地若しくは建物を所有している者又は国有の土地若しくは建物について占有権原又は使用権を有する者、並びにそれらに代わって義務を負う者(相続人等)に対して、固定資産税が課されることとされている。
固定資産税が課される対象者が誰となるかは各年1月1日時点の不動産所有等の状況を基準に決定され、各年4月までに所定の固定資産税を支払うものとされている。
地方当局は、毎年2月中に固定資産税が課される対象者に、固定資産税の金額を通知することとされている。
2. 課税対象不動産と課税金額
固定資産税法上、以下の4区分の課税対象不動産が定められている。
課税対象不動産 | 最高課税率※1 |
農業用土地及び建物 | 0.15% |
居住用土地及び建物 | 0.30% |
その他の土地及び建物※2 | 1.20% |
放棄されている又は使用されていない土地及び建物 | 1.20%※3 |
- ※1 各年の2月1日までに各地方当局が公表する課税率(上記表記載の課税率を超えてはいけない。)が適用されることとなっている。
- ※2 その他の土地及び建物とは、代表的には工業用、商業用の土地及び建物が挙げられる。
- ※3 放棄されている又は使用されていない期間が3年以上の場合、課税率は0.30%ずつ3.0%に至るまで3年ごとに増加することとされている。
放棄されている又は使用されていない土地及び建物について、2019年12月25日付で、その定義に関する細則(Ministerial Regulation Prescribing the land or building which is vacant or not utilized in the manner appropriate to its condition B.E. 2562 (2019))が官報に掲載され、以下のように定義がなされている。
• 「放棄されている土地又は建物」:以下の土地又は建物
- (a) 使用することが可能な状態であるにもかかわらず、放棄され、課税年度全体を通じて使用されていない土地。但し、自然災害又は不可抗力によって使用されていないものはこの限りでない。
-
(b) 使用することが可能な状態であるにもかかわらず、放棄され、課税年度全体を通じて使用されていない建物。
• 「使用されていない土地又は建物」:以下の土地又は建物
- (c) 農業用土地として使用できる状態にある土地であるものの、財務大臣及び内務大臣が定める基準を充たす使用が行われていない土地。
-
(d) 建設又は修繕が完了しており、農業用、住居用又はその他の目的のために使用することが可能な状態であるにもかかわらず、課税年度全体を通じてこれらの目的のために使用されていない建物。
課税対象不動産の区分により課税率が変わるため、課税対象となる不動産がどの区分に該当するかという点は、重要な関心事となる。この区分の判断に関しては、地方当局から課税対象者への通知により示されることとされており、かつ、当該通知において課税対象不動産の評価価格(Appraisal Value)も示されることとなっている。この評価価格は、上記課税率を用いて固定資産税を算出する際の算定根拠となる不動産の金額となる。
なお、この課税率に関しては、移行期間レートとして、2020年1月の課税期間から2年間にわたり、その不動産の区分及び評価価格に応じて上記よりも低い課税率が適用されることとなっているが、その詳細については、本記事では割愛させていただく。
(続く)