2020年3月26日号
シンガポール:新型コロナウイルスの影響まとめ(速報)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 坂 下 大
はじめに
3月25日、小池都知事が新型コロナウイルス感染の現状を「感染爆発の重大局面」と評し、在宅勤務の推奨や週末の外出自粛を呼びかけるなど、国内における新型コロナウイルスの感染加速への緊迫感が増しています。また、渡航制限の拡大等に伴い、海外に子会社・関係会社を抱える企業からの問い合わせも増えているため、速報ベースで各国の方針や影響拡大状況の概要につきお知らせ致します。なお、本記事は感染拡大が続く間、不定期に配信していきたいと思いますが、同感染症の拡大状況については日々状況が変化している中、本記事の内容がその後変更・更新されている可能性については十分ご留意の上参照ください。本記事の内容は、特段記載のない限り、日本時間2020年3月25日夜時点で判明している情報に基づいています。
全体概況 死亡者:2人、感染者数(累計):558人(3月24日現在) 比較的早期から厳格な入国制限や国内における感染者、濃厚接触者の隔離等の感染拡大防止措置を講じていたシンガポールは、3月初旬までは感染者数を1日数人程度に抑え込んでいたが、世界的な感染拡大を受けて、この1、2週間は1日あたり数十人の感染者が確認されるようになっており、その大半を国外で感染した後シンガポールに入国して発症したと思われる人が占めるようになっている(24日の感染者49人中32人が海外で感染したと確認されている)。かかる状況を受けて、現在は下記のとおり厳格な入国規制及び国内でのさらなる感染拡大防止措置がとられている。 |
主な政府発表
- ・ 保健省による、Disease Outbreak Response System Condition (DORSCON)と呼ばれる感染指標に基づくリスクレベルのオレンジへの引き上げ(2月7日)
- ・ 人材省による企業向け社内での感染者が確認された場合の対応ガイドラインの策定(2月21日、同27日、同28日)
- ・リー・シェンロン首相による、DORSCONレベルをオレンジに維持する旨や、国民に対し冷静な対応をすべき旨の呼びかけを含む演説(3月12日)
- ・ 人材省による、BCP(Business Continuity Plan)の策定等、雇用者として講ずるべき措置に関するガイドラインのアップデート(3月16日)
- ・ 人材省による、従業員の海外渡航への対応に関する諸ガイドラインの策定(3月16日、同23日)
- ・ 国内における感染拡大防止措置の更なる厳格化の発表(下記:3月24日)
渡航情報
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1. シンガポール国民、永住者、長期滞在パス(雇用パス等)保有者
(1)渡航先を問わず、シンガポールに帰国する者は全員、自宅等での14日間の経過観察、外出禁止措置(Stay Home Notice:SHN)の対象とする。但し過去14日間に中国湖北省への渡航歴を有する者は隔離命令の対象とする。
(2)上記に加え、雇用パス保有者及びその家族等のシンガポール入国については、雇用者の責任において、事前に人材省(MOM)の許可を得る必要がある。現在、このMOMの許可は、医療、運輸等の”essential services”に従事する者及びその家族等に優先して与えられる旨がMOMより発表されており、それ以外の外国人は、雇用パスを保有していても、当面はシンガポールに再入国することが見込めない状況にある。
(3)3月27日9時以降、入国前に健康状態申告書(health declaration)を提出する必要がある。 -
2. 旅行者、出張者等の短期滞在者
3月23日23時59分以降、全ての入国及び乗継ぎを禁止。
その他
- ・ 当局のウェブサイトにおいて、各感染者の属性や既確認感染者とのリンク等の情報が比較的詳細に公開されている。また、登録者には、政府より1日1、2回程度の頻度でSNS(WhatsApp)を通じ新規感染者数その他の最新情報が配信されている。
- ・ 関係省庁で構成されるタスクフォースにより、感染拡大防止のために講ずべき措置が策定され、随時アップデート(厳格化)されている。3月24日にこれがさらに厳格化されることが発表され、3月26日23時59分から4月30日まで、バーや娯楽施設の営業禁止、学校、職場外での10名超の会合の禁止、各人の間に1メートル以上の物理的間隔を設けること、(これは基本的に従前どおりであるが)職場にあっては従業員の物理的接触機会を減らすための措置を講ずること、等の遵守が求められることとなった。さらに、今後、感染症法の施行規則という形式で、上記措置に法的拘束力(罰則の適用を含む)を付与することも発表されている。
- ・ MOMは、従業員の物理的接触機会を減らすための措置(上記)を講じていないこと等を理由に、21の事業者に事業停止命令又は改善命令を行ったと発表した(3月23日)。
- ・ 3月14日から(全入国者がSHNの対象となった)20日までの間にシンガポールに入国した従業員を有する雇用主は、当該従業員に14日間の自宅待機措置(leave of absence:LOA)を講ずることがMOMにより推奨されている(3月20日)。
- ・ 雇用パス保有者(外国人労働者)の場合、SHNの遵守は、労働者と雇用者の共同の義務であるとされている(例えば、雇用者は、SHN期間中、労働者が食事や日用品を確保できるようにする義務を負う)。SHNの遵守はスマートフォンアプリ等を通じて厳格にチェックされ、不遵守に対しては雇用パスの取消しや、雇用者に対する将来の雇用パス申請不許可等の厳格な処分が科され得る(実際にそのような処分例も報道されている)。自社従業員がSHNの対象となる場合には、雇用者としてもその遵守について十分配慮をする必要がある。
- ・ 3月12日より、従業員の月給に影響を及ぼすコスト削減措置を講じた企業に対し、MOMへの通知が義務付けられている。
- ・ 従業員がSHN/LOAに服する場合に、当該期間は年次有給休暇を消化したものとして(雇用者の側が)扱うことの是非について、MOMは、当該期間中の在宅勤務の可能性を示唆した上で、在宅勤務が不可能である場合には(また特にSHN/LOAの原因となった海外渡航が業務関連のものであれば)追加の年次有給休暇を付与すべきこと(つまりSHNL/OA期間について年次有給休暇を消化したものとして扱わないこと)を推奨している。なお、政府のプログラムにより、雇用主は、申請により、かつ一定の条件の下で、SHN/LOAに服する従業員1人につき1日あたり100シンガポールドルの補償を受けることができる。
(さかした・ゆたか)
2007年に長島・大野・常松法律事務所に入所し、クロスボーダー案件を含む多業種にわたるM&A、事業再生案件等に従事。2015年よりシンガポールを拠点とし、アジア各国におけるM&Aその他種々の企業法務に関するアドバイスを行っている。
慶應義塾大学法学部法律学科卒業、Duke University, The Fuqua School of Business卒業(MBA)。日本及び米国カリフォルニア州の弁護士資格を有する。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。
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