(第13号)
企業法務よしなしごと
・・・ある企業法務人の蹣跚・・・
平 田 政 和
Ⅰ.Freshmanのために・・・若いうちにこれだけはやっておこう(その10)
【上司に信頼される】
上司に信頼される、とは具体的にどのようなことか。私は「安心して“めくら判”を押してもらえる。」、そして「もし万が一内容に問題点があったとしても“彼が間違ったのなら仕方がない”と上司に思ってもらえる。」ことだと考えていた。このように考えて、私は日々の業務を行っていた。
部下を持つ立場になったときにも、同じように考えた。私自身は“めくら判”を押したことはなかったが、債権回収の業務などにおける修羅場での部下の判断は「もし彼の判断が間違っていたとしても、私も同じようにしただろう。」と考えて、全て無条件で承認した。
上司に信頼され、また部下を信頼するには、部下としては真面目に広く目配りした仕事をするとともに、常に上司と意見交換をしその方針や考え方を理解しておくこと、上司としては部下の能力向上に努めるだけでなく、常に会社や自らの方針や考え方を理解させておくことが必要である。
入社後数年経った頃のことである。関係部の課長から緊急の質問が寄せられた。あいにく上司は不在だった。その場での答を求められた私は「正式には上司の意見を聞かないといけませんが、私はこのように思います。」と逃げることなく、判断の根拠を示し対応策を答えたようだ。その後に上司に報告したに違いないが、一連のこのことはすっかり忘れていた。何ヶ月か後に上司から「あの課長があのことに関して“君の意見と君の部下の意見は全く同じだったよ。感心した。”と言っていた。」と聞かされた。少し嬉しく思ったことである。
部下を持ったときにも逆の立場で同じようなことがあった。かなり微妙な問題を含む案件だったが、部下から報告を受けた内容は私の意見と完全に一致していた。このときはかつての私のことを思い出し、より嬉しく思ったものである。
また、このようなこともあった。私が会社としては初めての海外企業買収案件を担当し、アメリカへ出張して交渉していたときのことである。我々の交渉をサポートしてくれていたアメリカ人の弁護士から、ある同意書に「社長のサインを貰うように」と言われた。私は「同意書の内容自体は全く問題はないが、社長のサインを取り付けるのは事務的に大変だ。」と考え、「今ここにある書類で意図は充分に確認・証明されている。改めて同意書を作成する必要はない。」と私の考えを述べた。しかし、私の英語力や説得力が乏しかったのであろう、弁護士は了解せず、特に問題のない書類だから社長のサインを取るようにと言った。私の英語理解力では、弁護士の言っている理由が充分とは思えなかった。
押し問答をしていても仕方がないので、上司に、私の意見を添えて、社長のサインを取り付けて欲しい旨のファックスを出した。上司はなにも言わずに直ぐに社長のサインを取り付けて返送して下さった。
(以上)