◇SH0105◇企業法務よしなしごと-ある企業法務人の蹣跚26 平田政和(2014/10/10)

そのほか法務組織運営、法務業界

(第26号)

企業法務よしなしごと

・・・ある企業法務人の蹣跚(まんさん)・・・

平 田 政 和

 

Ⅲ.Juniorのために・・・広い視野をもとう(その6)

 

【代替案の提出により信頼を得る】

 私は、前号に書いたように、企業法務を遂行するに際しての姿勢として、“素直に考える”、“バランス感覚のある判断をする”、ことを基本と考えてきた。そして必ず“代替案を提出する”ことを心掛けてきた。

 そして“代替案を提出する”ためには、自社の事業内容とそれを取り巻く契約関係、物流関係、資金関係の詳細を熟知するとともに、これらについての日常の業務処理を具体的に知っておくことが必須であると考えてきた。

 質問や相談があったときに「それはできない」、「それは駄目」と答え、出来ない理由、駄目な理由を法律用語を駆使して説明するだけでは、如何にその説明が正しくとも、相談者の信頼を得ることはできない。

 質問者や相談者は「ちょっと気になることがある」、「どうも法律上なにか問題がありそうだ」、「法務部に行けば、何か良い考えを出してくれそうだ」、「ひょっとしたら何か奇策を教えてくれるかもわからない」と思って質問・相談に来ているのだ。それを「できない」、「駄目」との言葉で答えるのは答ではない。

 質問・相談内容に異論や問題があるときには、その理由を解りやすい言葉で充分に説明し、その納得を得た上で「こうすべきではないか」、「このような方法では目的を達成することはできないか」、「こうすればほとんど同じ効果が得られるのではないか」などと代替案を提出する。これが答である。このようにして質問者や相談者の信頼を得る。代替案を出せる柔軟性、創造性が企業法務を遂行するに際して必要であり、これにより相談を持ち込んだ部門の信頼を得ることができることになる。

 現実問題として、法務部に奇手妙手を期待されることも多い。しかし、常に奇手妙手があるとは限らない。ほとんどのケースではそのようなものはないと思い、基本に立ち返って素直に考え、代替案を提出し、質問者・相談者とともにその実現に向かう。この態度が必要である。

 このためには、日常の業務処理に関する具体的な知識を基礎に法律問題を常に幅広く勉強し、科目横断的な分析能力と百科事典的な知識を涵養する。例えて言えば有能な家庭医や総合診療医にみられるような能力を持つように努力する。深い法律知識を有していてもそれをそのまま表に出すのではなく、幅広くわかりやすい言葉で説明する。

 私自身としては、これらを常に意識し、業務を遂行してきたと思っているが、その評価はどうだったのだろうか。

(以上)

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