(第47号)
企業法務よしなしごと
・・・ある企業法務人の蹣跚・・・
平 田 政 和
Ⅳ.Seniorのために・・・将来を見据えよう(その10)
【契約書雛型について考える】
契約書の雛型を作成することは、多くの企業でよく行われている。私も自らのため、あるいは法務部全体のために数多くの雛型を作成した。
雛型の作成は、自分自身や法務部の業務効率化のため、レベルの維持、統一のために役に立つことは言うまでもない。作成した雛型が法務部内に留まっている限り大きな問題は生じない。
問題は雛型を法務部外に開放し、部外での活用を目指すときに発生する。
最初に開放される雛型は、秘密保持契約書であろう。論点や取り決めるべき事項が比較的簡単で、かつ企業活動に伴って数多く作成されることから最初の候補となる。
もちろん開放に当たっては、秘密を開示する立場か開示を受ける立場か、サンプルや資料の提供があるか否か、共同開発や共同研究に進んでゆくことが予定されているかどうか、相手方が顧客か自らが顧客の立場かそれとも同業者か等々種々のケースを想定し、チェックリストを付けるなどの配慮をし、その雛型を利用しようとする者が、妥当な雛型を選ぶことができるように、不適当な雛型、間違った雛型を選ぶことのないように慎重の上にも慎重を期する。
そして解放された雛型をルール通りに活用する限り法務部の審査は不要とする。
ところが現実の活用状況から判断する限り、当該ケースに相応しい雛型以外の雛型が選ばれていることがかなり存在する。自社が秘密を開示する立場にありながら秘密の開示を受ける場合の契約書を利用しているケースは何度か目にした。
次の問題はその雛型を活用する部署での雛型の文言や用語の修正や訂正である。
相手先との話し合いにより雛型を修正したり訂正したりする必要が生じたときには、必ず法務部へ相談するようにという注意がなされているが、そのことを知ってか知らずか、あるいは自身の判断では内容は変わっていないという単純な理由からか、法務部の知らないところで文言や用語の修正や訂正がなされることがある。
たまたま目に付いた契約書の問題点を指摘すると「法務部の雛型どおり」だと主張されることが何度かあった。「そんなはずはない」と過去を辿ると、途中で改変されている。いずれも意味が不明確になったり、全体としての整合性に問題が生じ条文間での矛盾が生じていたり、自社に不利になったりしたものであった。雛型開放から時間が経てば経つほどこれらの事例は多くなる。
雛型に類したものとして、自社の各種取引についての基本的取引条件を定めている統一した様式の取引基本契約書がある。この種の取引基本契約書にあっては法務部外での修正や訂正は一切認められていないため勝手に改変するという問題は生じない。
しかし、間違った書式を使うという問題は発生する。商社経由の取引と直接の顧客との取引においては取引基本契約書の内容は異なっているが、そのことに留意することなく間違った書式が使われているのを発見したこともある。
取引基本契約書について法務部外に任せることのもう一つの問題は、取引対象商品の範囲が広くなったり、取引条件が変わった結果、予め準備された取引基本契約書では取決め内容として不十分になったり、妥当しなくなったりした場合の対応ができないことである。その取引基本契約書を活用する部門の責任者が取引基本契約書の意義や内容を十分に理解し、広く目配りをしてくれればいいのだが、事実上このようなことは期待できない。
契約書雛型(の作成と法務部外への開放)についてはこのような問題があるが、限られた法務部の要員の活用や業務範囲の拡大のためには、他部署に任せることが可能なもの、他部署に任せても問題のない業務は、対応策を講じながら、他部署に任せるようにすべきである。契約書雛型の活用もこの一つであろう。
(以上)