◇SH0166◇企業法務よしなしごと―ある企業法務人の蹣跚44 平田政和(2014/12/12)

そのほか法務組織運営、法務業界

(第44号)

企業法務よしなしごと

・・・ある企業法務人の蹣跚(まんさん)・・・

平 田 政 和

 

Ⅳ.Seniorのために・・・将来を見据えよう(その7)

【顧問弁護士】

 わが国には顧問弁護士という制度というか慣行がある。顧問弁護士とは、特定の企業と顧問契約を締結し、当該企業の事案を優先的に処理すること、および当該企業と競争関係にある企業の事案を引き受けないことを約し、その見返りとして一定の報酬を得る弁護士をいう。

 報酬は、通常は定額の報酬(たとえば、月額いくら)であり、簡単な法律相談についてはその報酬の範囲内で処理され、個別に報酬が請求されることはない。

 顧問弁護士は、長期にわたって当該企業の相談を受けており、企業の事業内容、内部事情や経営者の考え方などをよく理解しており、企業の信頼も厚い。顧問弁護士にはいつでも気軽に法律相談をすることができる。

 長期と言う意味では、自社の顧問弁護士の任期について終身だと言った法務部の責任者の発言を覚えている。少し驚いて聞き返したが文字通り終身だった。

 企業の内容や事情をよく理解しているという意味では、顧問弁護士はそれまでの種々の法律相談を通じて、事業内容やその事業の方向性の説明を受け、それを熟知しているため話が早い。

 また過去の法律相談や紛争処理を通じての対応策との関連でも、その意見は傾聴に値する。新入社員だった頃のある法律相談では、私を指導してくれていた先輩法務部員も知らないような過去の案件における対応との関連での実務的な意見を頂戴したことがあったが、長年会社の顧問を務めている弁護士ならではの意見だ、と思ったことである。

 このように顧問弁護士制度の利点は多々あるが、近年では企業において発生する法律問題は多岐にわたり、その内容は複雑になり、一人の顧問弁護士や一つの法律事務所に全ての問題にベストの対応を期待することができない場合も増加している。このこともあってか大企業では数多くの弁護士や法律事務所と顧問契約を締結している。

 私が勤務していた会社では、三代前の法務部長が常に相談を持ちかけていた東京と大阪の二人の弁護士を除き、ほとんど名目だけであった数人の弁護士との契約を解除し、それぞれの分野毎に専門の弁護士あるいは法律事務所を予め選定しておき、常日頃からその分野に属しあるいは関連する案件の相談を中心に個別に接触を保ち、いざというときに備えるという方法に変更した。

 その間の事情の説明はなかったが、当時の会社の経営状況から判断すれば、経費節減が目的であったのかも分からない。この時、顧問として残ることとなった弁護士から、自らの顧問料を下げてもいいから従来の顧問弁護士との顧問契約は続けるようにとのサジェッションがあったと後日に先輩から聞かされたのを記憶している。

 私が大阪から東京へ転勤することになったときのことである。顧問弁護士にご挨拶に伺った際には激励の言葉とともに、在京の何人かの幾つかの分野の弁護士の名前を示して、ご挨拶に伺うようにとのアドバイスを下さった。会社の方針を念頭においたアドバイスであり嬉しく思ったことであった。

 私が尊敬する企業法務の先輩は「顧問弁護士には、事業経営との関係では、今まで言われている利点に加えて、会社の内部事情、経営者の考え方、会社の歴史をよく知っている、高度のintegrity(高潔な誠実性)を有する専門家として、ethics(職業倫理)の観点からの発言や意見を期待したい。」と言われている。

 企業が利益追求に走り、違法行為、著しく不当な行為、社会の要請に反するような行為を行わないように、厳しい態度で指摘することを期待している、という意味だろう。このためには法務部員だけでなく、経営者も顧問弁護士との接触を密にする必要がある。

(以上)

 

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